「戦争の勝ち負けだけではない価値感を感じさせてくれて秀逸」ミケランジェロ・プロジェクト 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
戦争の勝ち負けだけではない価値感を感じさせてくれて秀逸
ジョージ・クルーニーが製作、監督、主演、そして共同脚本まで手掛け、ナチスドイツに略奪された美術品の奪還作戦という、あまり知られていなかった史実を描き出しましたた。
バリバリの民主党支持者で、人権派であるクルーニーが、この作品に込めた意図は明確。それはナチスと独裁政治に対する強烈な批判です。彼が演じるプロジェクトの中心人物ストークスが初めてナチス幹部の対峙するときの彼の目線は、怖いほど怒りをぶつけていたのです。
ただクリーニーは怒りだけでなく、人類の文化遺産を救った英雄、モニュメンツ・メンの活躍に映画で光をあてようとした意図として、文化や芸術を保護する歴史的意義ということも訴えたかったのでしょう。
戦争においては、眼前の勝利だけが重視されて、文化や芸術を保護することなんて無視されてしまいます。しかし劇中で、ストークスは軍の幹部たちに文化や芸術を保護することは命を紡ぐことなんだ、文化や芸術を失うことにいまは何も感じられないだろうが、その後の時間の中で、われわれの命が失われてしまったことに気づくだろう。その時では遅いのだと語るシーンには感動しました。
戦争の勝ち負けだけではない価値感を感じさせてくれて秀逸です。
とにかく終戦70年の今年、欧米でもさまざまな戦争映画が作られているが、その中でも戦闘場面がほとんどないユニークな作品でした。
物語は、ファン・エイクの「ヘントの祭壇画」がナチスによって強奪されるところから始まります。ミケランジェロの「聖母子像」やダ・ビンチの「モナ・リザ」、……。ナチスドイツは500万点もの美術品を略奪していきます。
アメリカの美術館や館長の多くから戦争によって、美術品が危機に晒されている事態を懸念し保護を求める要望が、連合軍に寄せられていたものの無視されていたのです。
だいたい中年のしかも戦闘訓練も受けていない美術館員が、戦場を駆け巡って美術品の収集をするなど、軍としては足手まといで迷惑たという気持ちもわかります。
しかし戦争の末期になり、連合国側が古い修道院を破壊する事態となって、味方の攻撃から文化財を守る必要に迫られる事態となってきました。何しろダビンチの傑作壁画『最後の晩餐』まで、誤って破壊しようとしたくらいですから(^^ゞ
ヘタをすると世界から、連合国軍が文化の破壊者として非難される可能性が出てきたことで、ルーズベルト大統領もやっと美術品の保護活動に許可を出したのです。
それらを取り戻すために結成された特殊部隊がモニュメンツ・メン。ハーバード大学付属美術館の館長ストークス(クルーニー)、メトロポリタン美術館学芸員のグレンジャー(マット・デイモン)ら、12名の戦争経験ゼロの男たちでした。
彼らは、手分けしてヨーロッパ各地を捜索します。しかし、初めは美術品の行方がなかなか分かりません。とにかく美術品に無関心な兵士たちを相手にする苦労並大抵のものではありませんでした。美術品よりも同時に見つかった金塊に注目が集まる無力感もしっかりと描かれます。しかも情報は限られているなかで、敗戦を覚悟したナチスは、ヒトラーが死亡した場合、全ての美術品や文化財を破壊するという通達を発表します。多くの名画がドイツ軍によって焼き払われる場面も。そして、東からはソ連軍が美術品を換金目的で略奪しようと迫ってきていたのです。
間一髪、ソ連軍の機先を制する際どいシーンも描かれます。欲を言えば、もう少しナチスやソ連軍の動きを整理して描いてくれたら、もっと迫ってくるという緊迫感を感じさせてくれたなぁと感じました。
むさ苦しい中年男たちが奮闘するなかで紅一点、物語のキーマンとなるのが、フランスの国立美術館で学芸員をしていたシモーヌ。彼女は、フランスを占領したナチス高官の個人秘書をさせられていたのですが、その立場を利用して、密かに略奪品の搬送先を記録し続けたのです。そんな秘密を持つシモーヌだけに近づいてくる人物には警戒心が強いのは当然。モニュメンツ・メンのグレンジャーがコンタクトしてきても、最初は全く信用しませんでした。しかし、その後のグレンジャーの涙ぐましいほどの努力が見物。やがて男と女の関係としても、いいセンに打ち解けていく二人の距離感の演技がいいのです。さすがは、マット・デイモンとケイト・ブランシェットの名演技でしたね。
クルーニーは、大きな体のジョン・グッドマンや小柄なボブ・バラバン、フランス人のジャン・デュジャルダンといった個性あふれる面々を巧みに組み合わせ、笑いを交えて観客を戦場へいざなってくれました。
とにかく登場人物がおおく、場面転換が激しいので、いま何が起こっているのか分かりづらい作品です。ネタバレを恐れず、モニュメンツ・メンについて歴史的史実を予習してから鑑賞した方が、楽しめることでしょう。
それにしても戦後70年経ったいまでも世界中で14名のモニュメンツ・メンが活動を続けているというから驚きです。最近でもナチスに奪われた時価15億ドル相当の名画を発見したなど成果を生み出しているものの、まだまだ多くの美術品が行方不明のままなのだそうです。
そして、この作品の後日談として、今月末公開の『黄金のアデーレ 名画の帰還』に繋がっていくのです。