「つらいよ~」「不幸だよ~」「悲しいよ~」という演技はかなり伝わってくるが、「がんばって演技してます」というのも伝わってくる。ほら、悲しい、苦しい表情しているでしょと。
エンディングロール後にある映像も、見惚れるほど美しいのだが、日本人形。生身の人間を感じられない。
これを”演技”としてやっているのならすごすぎる。
でも、主役に感情移入できないから、すべる、すべる。渾身の告白場面でさえ、しら~っとしてしまった。
つい他の女優だったら、なんて置き換えてしまう。
吉田羊さんだったら、木村多江さんだったらどう演じるかな?
年代下がるけれど、池脇さんや、黒木さん、尾野さんでも観てみたい。
でも主役のせいばかりではなくて、何より、脚本が…。膨大な原作を端折ったのか?と思うほど、説明が下手。
主筋ー予告等で煽っている謎には、ちゃんと答えを出しているのだけれど…。
「雌の蝉は泣けない」「蝉の抜け殻で雄と雌がわかる」
同時並行で、差しはさまれるエピソードたち。
”行方不明者”を探すのが”趣味”というフリーライター。
あの刑事のあの行動。
そして、唐突な告白とその顛末。
エンディングロール直前の映像。
エンディングロール後の映像。
それらのつながり・意味を想像するのは、鑑賞者に丸投げ。
「こういうこと?」という雰囲気は、ばらまいてくれるのだが。
演出も、細部に気を払っていない。
男が女に暴力をふるうために追いかける場面があるのだが、すれ違うご近所さんはその様子に気も留めずに、農作業を続けている。DV法がこれだけいきわたっているのに、そんなことあるか?
全編、こんな感じで、詰めが甘い。
雰囲気だけで撮ってしまった感じ。
森は『追憶の森』を思い出させて、それだけでドラマになりそうなのだが。
それでも、
柄本氏はいつもの演技を見せて下さる。
そして、私にとって拾い物は斎藤氏。有名な方らしいが、私には初めてだった。出演作の幾つかは見ているのだが、記憶になかった。
今回の役柄は、役所氏と被るかな?でも、役所氏より、ギリギリのキレ方、狂気の腰が据わっている。仲代氏のような大きな目をぎらつかせ、でもその奥には怯えをちらつかせ、それでいて他人を頼り、甘えを相手に押し付ける。危険さといやらしさをばらまく。なのに、嘘をついているのは昭彦だけとは思わせない。嘘もついているだろうが、どこかに昭彦の方が真実をかたっているのではと思わせてしまう演技!すごすぎる!
この方に、☆1つ。