「【全てを手に入れている筈の大富豪が惹き起こした恐ろしき出来事。今作は、母親から愛を受けずに育った男の精神が徐々に歪んで行く様を、スティーブ・カレルが無表情に演じている恐ろしき作品である。】」フォックスキャッチャー NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【全てを手に入れている筈の大富豪が惹き起こした恐ろしき出来事。今作は、母親から愛を受けずに育った男の精神が徐々に歪んで行く様を、スティーブ・カレルが無表情に演じている恐ろしき作品である。】
■ロサンゼルス・オリンピックで金メダルを掴むも、経済的に恵まれぬ日々を送るマーク(チャニング・テイタム)。
そんな彼に、彼のデュポン財閥の御曹司ジョン・E・デュポン(スティーヴ・カレル)がオリンピックに向けて結成したレスリングチーム”フォックス・キャッチャー”への加入オファーが来る。
チームに入ってジョンとの絆を育組練習に励むマークだが、ジョン・E・デュポンから、同じレスリングの名選手であり、マークの良き指導者でもあった兄デイヴ・シュルツ(マーク・ラファロ)の引き抜きを命じられる。
◆感想
・序盤は、チャニング・テイタムとマーク・ラファロが激しいトレーニングを長期間行ったとされる本格的なレスリングシーンに引き込まれる。
ご存じの通り、レスリングはオリンピックでは注目されるが、終わると注目が一気に減るスポーツである。
故に、チャニング・テイタム演じるマークは、ロサンゼルス・オリンピックで金メダルを獲得するも、その後は経済的に苦しい生活を強いられるのである。
・そこに、デュポン財閥のスティーヴ・カレル演じる御曹司ジョン・E・デュポンがオリンピックに向けて結成したレスリングチーム”フォックス・キャッチャー”加入の話が来る。当然、マークはジョン・E・デュポンの元に駆け付けるのである。
■今作で、ジョン・E・デュポンは殆ど笑わない。且つ、精神的に病んでいる感が尋常でない。馬好きの母親からは、レスリング指導に当たっている事を毛嫌いされる。
彼が、母がレースで得たトロフィーを全て捨てさせ、代わりにマーク達が獲得したメダルを飾らせるシーンが印象的である。
母親は、ジョン・E・デュポンがレスリングの経験もないのにコーチする練習場に車椅子で来るが、息子の元には近づかず、一言も声を掛ける事無くその場を去るのである。
ジョン・E・デュポンの書斎の椅子の裏の壁には、大きなアメリカ合衆国の国旗が額に入れて飾られている。
精神科、もしくは心理療法の書物で良く言われているのは、人間は恵まれすぎていると自身の欲望通りに物事が進まないと、精神が破綻するケースが多いという事である。ジョン・E・デュポンの、序盤からの人間性の温かみが無い無表情は、その為であろうか・・。
・マークがジョン・E・デュポンに認められようと、必死で練習に取り組むが、予選の1ピリオドで判定負けを喫するシーンも印象的である。
そして、自棄になるも”フォックス・キャッチャー”に加入した兄の懸命の励ましにより、予選を勝ち上がる。だが、ジョン・E・デュポンは急死した母親の葬儀に出席していて不在である。
そして、別の試合でマークは負け、ジョン・E・デュポンの元を去るのである。
それを見届けたジョン・E・デュポンは、自身のレスリングコーチのドキュメンタリー番組を見てから、秘書の男に命じデイヴ・シュルツの家へ向かうのである。
<そして、雪の中、ジョン・E・デュポンはデイヴ・シュルツに”私に不満があるのか?”と表情一つ変えずに言い、拳銃を三発発砲するのである。
雪上で、血を出しながら動かなくなるデイヴ・シュルツ。そこに駆け付ける妻。
今作は、大富豪故に全てを手に入れている筈の大富豪が、抑えきれない支配欲や母親からの承認を得られなかったが為に精神的にダメージを蓄積して行った果てに、惹き起こした恐ろしき出来事を淡々と描いた作品である。>