「架空の愛と幸福」鑑定士と顔のない依頼人 レールデュタンさんの映画レビュー(感想・評価)
架空の愛と幸福
社会のコミュニティーから外れた鑑定士が部屋に篭ったままの少女に恋をする話。
この作品では鑑定士の孤独に強く惹かれた。
現実では1人で誕生日を祝い、誰とも行動を共にせず、競売氏としてひたすら日常を過ごす。
その中で気に入った美しい女性の肖像画をコレクションし誰にも見せず一室に篭り続ける。
社会的に見ればかなりのお金持ち、満たされた地位にいる彼はそれでも孤独に見える。
外界との拒絶をしていた彼はある意味少女と良く似ていた。
それ故に彼女に恋をした途端のめり込み、あれ程規則正しく生活をしていた彼は狂って行く。
少女が姿を消した途端取り乱し、競売の最中で電話をしたり、仕事もだんだんと疎かになる。
この作品の中でとても好きだったのは細やかな表現だった。
(最初はどんな時でも手袋を外さず、他人の携帯を使う時はティッシュを挟む徹底的な彼の潔癖ぶりが、後半になるにつれみっともない姿になる所など)
そして意味深なオートマタ。あらゆる質問に答えるという人形は完成することなく彼の前でみすぼらしい姿を現わす。
そしてあのラスト。
だが彼はある意味つかの間でも幸福だったのかなと感じる。
偽りの愛、騙され全てを失い、たとえ手元に残ったのが少女の肖像画1枚でも、待ち続ける選択をした彼は、「来ない物、手に入らない物を待ち続ける」というある意味での幸福を手にすることができたのではないだろうか。
コメントする