「衝撃のラスト…後味の悪さが衝撃を上回る」鑑定士と顔のない依頼人 もしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
衝撃のラスト…後味の悪さが衝撃を上回る
もー、本当にいろんな意味で衝撃でした。
映画館で予告を見た時は、知的なミステリーで最終的にはおじいちゃんと若い娘が結ばれるのかね…くらいに思っていて、どちらかというと「知的」の方を期待していたのですが、とんでもない。
スタートこそオークションの裏側みたいなところはとても面白いなぁとおもいました。また、女性恐怖症のヴァージルが女性像の美しい絵画をオークションで安く落とし、コレクションをしているその部屋そのものの異様さが、この人物の屈折した人間像を物語っている気持ち悪さもとてもよかったです。
物語は人前に出ることを極度に恐る依頼人の依頼から始まり、ヴァージルを振り回しながら、二人の距離は縮まって行く。喧嘩をしながらも、クレアは美しくも気性が激しく気まぐれで、そりゃこんな娘に頼られたら勘違いもしますわ、特に初老のおっさんだったらこてっですね。
ただ、この物語の良いところは、ヴァージルのキャラがいちいちぶれない。もともと、鑑定依頼された美術品の中でも、自分の欲しいものは低い評価を下して、グルになっているビリーに安値で落札させるサギまがいの行為を繰り返しているヴァージル。クロエの家に行き続けたきっかけは機会人形の部品集め…。その部品を集めることを目的に最初は通っていたのでしょうね。
ヴァージルは完全にクレアにぞっこんになって、ドレスやディナーをプレゼント、クレアも好意を持つようになり…。そして、クレアが失踪をした時のヴァージルの狼狽っぷり…オークションも失敗だらけで、絵に書いたような恋に溺れた感じがすでに哀れでならないのですが…。
ヴァージルが何者かにクレアのお屋敷の前で襲われ救急車に運ばれるシーンではクレアが!なんと屋敷をでた!
いやこの時点でおかしなことは盛り沢山で、もう何が何だかわからないのです。襲われた理由がわからないし、何も取られてなっぽいし…。
そしてヴァージルとクレアは結ばれ、ヴァージルは最後のオークションへ。引退してクレアと悠々自適な人生を送ろうとしたのでしょうね。
ここからが、ドンデン返しの始まり!クレアは消え、収集した絵画も消えおうせ、失意にくれるヴァージル。実は、自信を評価することなく自信の画家としての人生を台無しにされたビリー(劇中で冗談めかして何度もふれてます)の大掛かりな復讐劇でした…と。
賛否は別れると思いますが、この話…騙された…で終わってほしかった。ここから先が本当に救いがない…。ヴァージルは警察の前まで行って警察に通報するのをやめて見たり、クレアがいっていたDay&Nightにいって、クレアを待ってみたり。Day&Nightが実在しなければヴァージルも騙されたで終わってよかったのでしょうが、中途半端に実在し、これがまたなぜかゼンマイ装飾の店…。「もうやめてー」と思わざるを得ません…。劇中で「愛は偽造できる」という話だったり、「どんな贋作の中にも必ず真作は存在する」という話だったりがありましたが、ヴァージルはクロエの愛だけは本物と思いたかったのでしょうね。
今まで自分しか信じず、たくさんの人を騙してきた報いといえばそれまでだし、そんな彼が人を信じることができた…という見方もなくはないですが、長年仕事を共にした友人に裏切られるは、生まれて初めての最愛の恋人にも騙されているは…。もう散々。
ミステリーとして見れば本当によくできた話だと思います。いや、フラグの立て方もうまいし、この結末…って思う本当にすげーって思いました…が、童貞男しかもおじいちゃんが若い子に入れ込んで財産を騙し取られる…でもまだ彼女を信じてる…何だか悲しすぎるというか、騙すならもっと騙されるべく悪い人にしてほしかった。いやヴァージルも普通に悪い人なんですけど…
後味の悪さがミステリーの凄さを上回った映画でした…