クソすばらしいこの世界 : インタビュー

2013年6月6日更新

キム・コッピ＆「ムカデ人間」北村昭博、初共演で挑んだ多国籍ホラー

郊外のコテージで快楽におぼれる若者。忍び寄る狂気――ホラーではよくあるシチュエーションだ。しかし、女性監督・朝倉加葉子の長編デビュー作「クソすばらしいこの世界」は、言葉が通じない孤独、アイデンティティの相違という我々が日常で感じる感覚が、残忍な殺人鬼によってもたらされる恐怖を加速させる。「息もできない」（2008）で火がついた韓国女優キム・コッピと、カルトホラー「ムカデ人間」（09）の怪演が話題を呼んだ北村昭博。初共演となったふたりが、日本人監督が描くスラッシャーホラーについて語った。（取材・文・写真／編集部）

ロサンゼルスの片田舎に、バカンスでやってきた留学生グループ。韓国人留学生のアジュン（コッピ）は、英語も話せず、ドラッグにセックスと遊んでばかりの日本人留学生たちのなか、意識の違いに孤独といらだちを募らせていく。やがて、ある事件をきっかけに6人は殺人鬼に命を狙われ、なすすべもなく餌食になっていく。

無慈悲に殺りくを繰り返す謎の兄弟。泣き叫ぶ若者に噴き出す鮮血。冒頭から過激な描写で始まり、ラストシーンまで観客が息をつくことを許さない。主演のコッピは、実はスラッシャーホラーが得意ではないというが、全身血まみれになる壮絶な場面にも挑んだ。しかし、本作はただセンセーショナルな要素だけではなく、言語や文化の違いといった壁も描いている。コッピは、「キャリアを積んでいい就職ができるように、未来に向けてがむしゃらに突き進んでいく」韓国留学生の姿を思い描き、「仲良しグループのなか自分だけ一人ぼっちな思いをしたり、言葉がまったく通じないところに置き去りにされたような感覚に陥ることは、普通に経験することがある。日常のなかで、自分が感じるさまざまな感情や経験は、いろいろなところで接点があると思う」と内面からも引き出しながら、役に入り込んだ。

「出演を決めたのはコッピちゃんの存在が大きい」と断言する北村は、「『息もできない』を見たときに、すごい実力派の人だなって。僕はそんなに演技の経験があるわけじゃないから、才能ある人と一緒に仕事をするということが大きい」と謙虚に語る。しかし、自身のアメリカ留学経験をいかし、「遊んでいて英語も話せない“遊学生”を見てきた。観客が応援してくれるタイプの格好いい役だった『ムカデ人間』とは逆で、人間としての弱さやしょうもないいやらしさ、ダサさを強調した」とまったく異なるキャラクターになりきり、ホラー映画の典型的な犠牲者を演じきった。

本作で初顔合わせとなったコッピと北村。初対面時には、コッピが衣装部の手伝いをしていた北村をスタッフと勘違いするハプニングもあったそうだが、すっかり気心が知れた様子で「いい友だちになった」と笑い合う。「役者としてのスタイルが、つくり込むよりナチュラルで生の感情を大事にしているところがすごく似ている」と話すコッピに、北村は「コッピちゃんは僕と違って子役のころからやられていた方なので、自分とのプロ意識の差がすごかった。尊敬しながらも、なんとかコッピちゃんに食らいつこうと頑張りました」と闘志を燃やす。

現場を振り返ったふたりは、朝倉組は女性監督ならではのきめ細やかなケアが多く、「守られているという感じがあった」（コッピ）、「信頼しながらできた」（北村）と口をそろえる。一方で、「血の描写とかが多くて、女性だからこそ残酷に描けるのかなっていうサディスティックな部分が見えて、そこがよかったのかもしれない。力強い監督だと思います」（北村）、「持ち前のエネルギッシュさで、現場を明るく前向きに盛り上げていく映画づくりでした」（コッピ）と朝倉監督が持つパワーにも魅了されたようだ。

しかし、和気あいあいとした現場の空気は、スクリーンでは一切封じられている。日韓留学生の温度差は激しく、殺人鬼と犠牲者の間の隔てる溝は深い。その根幹に存在するものは、アイデンティティの違いや人種差別といった問題だ。「（ポスターでは）『決して埋まることはない』と言っていますが、無知っていうのは怖い。人種差別がなくならないのは、無知ということからきているんだと思う。狭い世界で生きているから人種差別が生まれるし、もっと世界を広げていくことが重要だとアメリカに来て学びました。そういう世界があるというのが現実だけれど、同じ人間として生きていければいいな」（北村）

コッピは杉野希妃と共演した「マジック＆ロス」、北村は「ムカデ人間」など多国籍な作品に参加してきた。合作映画が持つ魅力をたずねると、コッピは「違う文化や言語を話す映画人たちが出会って、一緒に映画をつくっていく過程が本当に面白いと思うんです。私自身、合作映画が好きなので、これからもこういう機会が増えていってほしいし、俳優としてももっとチャレンジしていきたい。日本のホラー映画は初主演ですが、私にとってとても意味のある作品になりました」と屈託のない笑顔を見せてくれた。北村も「いいものを目指すっていうのは変わらない。そんなに難しいことじゃないから、合作映画がもっともっと増えたら」と力を込め、「日本のホラー監督はいろんな方がいるけれど、朝倉さんはすごく新しい才能。まだ始まりで、これから世界にどんどん挑戦したい。『日本のホラーの才能だと言ったらオレたち。これからはオレたちの時代だ』という勢いでどんどんやっていきたい」とますますの飛躍を誓った。

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