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名匠パトリス・ルコント、初のアニメーション作品を語る
「髪結いの亭主」「仕立て屋の恋」のパトリス・ルコント監督が初のアニメーション映画を手がけた。原題は「自殺用品専門店」を意味し、フランス人らしい辛らつなブラックユーモアをちりばめながらも、美しい映像と軽快なミュージカル仕立てで老いも若きも楽しめる人生賛歌に仕上がっている。新境地を開いた名匠に話を聞いた。(取材・文・写真/編集部)
作家ジャン・トゥーレの小説が原作。一家の主ミシマを筆頭に、自殺を手助けする道具を売っていた陰鬱な家族に前向きでにこやかな男児アランが誕生する。人生を楽しく生きたいと願うアランの企みから、家族の状況が一変していく様をコミカルに描く。
ルコント監督は映画監督デビュー前に、BD作家として漫画雑誌社で働いていたという経歴をもつ。今作はプロデューサーから持ちかけられた企画だそうで、「こういうことでもなければ、これまで私自身アニメ映画を撮ってみたいとは思うことはありませんでしたが、アニメは昔から好きでしたし、過去に漫画を描いていたので居心地の良い世界です。アニメの世界で働く技術者はみな若く、それは私にとってとてもよいことでした。彼らはエネルギーがあり、現代的で生き生きしていて、一緒に仕事をして感動を得ることもできました」と新たな領域での創作の喜びを見出した。
表現方法としてのアニメーションの魅力については、「一番の利点はその自由さです。原作から脚本を書き上げる際に、アニメーションで表現できるとなると多くの自由が与えられるわけです。演出の面でも限界がないので、自分のやりたいように自由に、そして詩的な演出もできます。想像や空想に全く限界がないので好きなようにふくらますことができました」と語る。そして、「映像が絵画的であることが一番大事だと考えました。3Dで見た時に、バーチャルすぎるようになるのは気に入らないので、あくまで、鉛筆、絵具、紙を使って描いたように仕上げたかったのです」と話すように、あたたかみのある繊細な色づかいにルコント監督のこだわりが感じられる。
自殺というショッキングな題材を扱っているが「喜劇であって、暗く不吉な映画ではありません。とことん楽観的な映画です。そして、この映画は子ども向けでもあります。(登場人物の)アランのように8~10歳であれば理解できます。孫娘とその友達に見せたら大喜びしていました」と説明し、既に公開された本国では、これまでルコント監督の作品に触れたことのない子どもたちという新たな観客を獲得した。
ミュージカル部分の歌詞は原作にはないもので、すべて監督が創作し、人生における思いを込めている。「“強く望めば手に入る”という歌詞は『仕立て屋の恋』でも同様のメッセージを込めていますし、私が昔から伝えたいと思っていたことです。簡単な言葉ですが、かなわない夢はないということです。私は夢を見る人間ではありませんが、可能性を信じることは大切なのです。そして、現実の暗さや陰気な部分に目をつぶってはいけないと思います。それを理解して乗り越えるべきだと思うのです」