ランナウェイ 逃亡者 : 映画評論・批評
2013年9月25日更新
2013年10月5日より新宿武蔵野館ほかにてロードショー
リベラル派レッドフォードの精神がよく表れた一作
ロバート・レッドフォードは、保守化するアメリカ映画界において、良心的リベラル左派の最後の拠点たらんとする自覚があるのかもしれない。レッドフォード演じる温厚な人権派弁護士ジムは、実は過激な反体制組織〈ウェザーマン〉の幹部のひとりで、30年前の銀行襲撃事件の際、警備員殺害容疑で指名手配されていた過去が、地方紙の野心的な新聞記者ベン(シャイア・ラブーフ)によって暴かれる。
実話を元にしたこの映画がユニークなのは、ジムとFBIとの丁々発止の追跡劇ではなく、ジムが「舞踏会の手帖」よろしく全米各地に散らばる昔の過激派仲間を訪ね歩き、その足跡を追うベンの視点を借りつつ、事件の真相に迫る語り口を採っていることだ。ベンは、テロリストと一括された彼らが1960年~70年代のベトナム戦争、人種差別に抗議した真摯な問題意識を抱えた世代であり、その同志愛が時代を超えて生き続けていることを証言する〈記録者〉の役割を担うのだ。レッドフォードは明らかに、ベンに「大統領の陰謀」で自ら演じた敏腕ジャーナリストの末裔を見い出している。ベンが心惹かれる元捜査官の養女レベッカを演じたブリット・マーリングの清楚な美しさ、とくにジムの娘を演じたジャッキー・エバンコの表情豊かな天才子役ぶりは圧巻で、このふたりは次世代への希望と精神のリレーを象徴する存在といってよい。
だが、見終わって、もっとも強く印象に残るのは、かつてジムの同志・恋人であったミミを演じたジュリー・クリスティだろう。スウィンギング・ロンドン、アメリカン・ニューシネマの時代を代表するミューズであり、自由奔放な存在感で魅了した彼女ほど、不屈のラディカルな反体制活動家の役にふさわしい女優はいないからである。
(高崎俊夫)