劇場公開日 2013年6月28日

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アンコール!! : 映画評論・批評

2013年6月25日更新

2013年6月28日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー

老人になった「怒れる若者たち」を描く反骨のドラマ

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テレンス・スタンプ扮する主人公のアーサーは、いつも怒っている。無理もない。72歳の彼は、1950年代に「怒れる若者たち」と呼ばれた世代なのだから。そして実際、アーサーには、怒れる若者たちの名称を生んだオズボーンの戯曲「怒りをこめてふりかえれ」の主人公ジミーと同じ血が流れている。

ジミーとアーサーの怒りの根源は、妻と自分に関する「変えられない現実」だ。労働者階級出身のジミーは、中産階級出身の妻を幸福にできない自分にいらだっている。一方のアーサーは、愛する妻に近づく死を止められない自分にいらだつ。似た者同士の2人は、社交性に難がある点も共通している。ジミーが教会を嫌い、妻の教会通いに反対したように、アーサーは合唱団のコミュニティに違和感を覚え、妻が練習に通うことを快く思っていない。

そんなアーサーが、自ら憎むべき合唱団に参加することで人生の悲しみを乗り越えていく姿をこの映画は描く。というと、怒れる老人から哀れな老人に変貌したアーサーが、合唱仲間に支えられて笑顔の老人になる筋書きが想像できるが、それをこの映画は見事に裏切る。

合唱団に入ってもアーサーの本質は変わらない。その証拠に、彼が最も輝きを放つのは、体制に憤って反旗を翻すときだ。怒れる老人が本領を発揮してヒーローになる。その瞬間にスポットを当てたドラマの仕立てが気持ちいい。

終幕でアーサーが歌うのは、ビリー・ジョエルの「眠りつく君へ」。妻に贈るラブソングだが、ジョエルのナンバーに「怒れる若者」があることも選曲に関係しているのではないか。その歌詞の「きっと墓に入るときも怒れる老人だろう」という一節を思い出してニヤリとしてしまった。

矢崎由紀子

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