「☆は10個です!」かぐや姫の物語 ko_itiさんの映画レビュー(感想・評価)
☆は10個です!
カナダのアニメ作家フレデリック・パックの影響を隠さない高畑監督の作品。ただ、彼の作品と今回の作品の違いは前者が色を動かしてゆくイメージに対して後者はまず描線を先に次に色をもってくるイメージだ。
普通のアニメでは当たり前だが線と色は同時に動くの対して今作は最初のかぐや姫が大きくなるシーンでまず描線をのばし色を付けてゆくという描写からも観てわかる。だから里でのかぐや姫は描線を動かして開放的であることを表現して、都では描線をおとなしくしてかぐや姫の心境を表現してゆく。TVアニメ「アルプスの少女 ハイジ」でハイジの感情を山では広い空間設計をして明るさを表し都会では狭い空間設計で沈みゆく感情をつくりだしたのと同じ方法だ。
最初は「なるほど、そうきたか!」という見方だった。
貴族、帝、捨丸などの男逹の全てが成長したかぐや姫に焦がれる描写は「無自覚な悪女(ファムタール)」かなとも感じた。
しかし、最後のお迎えのシーンで全てが氷解する。
天上人の描線の細さ!
それこそが今作の主眼だった。下界の穢れを表現するためにこの手法を使ったのだと。そして男達は穢れ少ないかぐや姫に惹かれていたことも。(グラビアやアニメの女性に心を奪われる事に似ている)
そうしたらCMコピーにもなった「罪と罰」とは「下界に想いをはせた」のが罪で穢れをかぐや姫に認めさせることが罰なのだと分かる。それを踏まえれば最後のシーンは恐ろしい解釈になる。
羽衣を羽織られる刹那にかぐや姫は叫ぶ、その叫びが終わらないうちに彼女の描線は細くなる。そして、去るときに流す一筋の涙。そうして彼女は価値観が違う世界どうしが向き合う矛盾を封じ込め存在になった。
怒り、悲しさ、楽しさ、刹那さ、絶望、そして美しさを閉じ込めた存在に様々な感情が交錯するときに表現する言葉はひとつしかない。
「ただ、ただ、素晴らしい」と