「誰もが知っている物語、誰もが深くは知らない物語」かぐや姫の物語 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
誰もが知っている物語、誰もが深くは知らない物語
高畑勲。
宮崎駿と共に、ジブリの二大巨頭。宮崎の先輩でありながら、一般的にはどうしても宮崎より認知度が落ちる。宮崎ほどのヒット作に恵まれてはいないものの、だからと言って手掛けた作品が劣っている事は決して無い。「火垂るの墓」「おもひでぽろぽろ」の実写のような丁寧な演出、「平成狸合戦ぽんぽこ」のユニークさと社会風刺を見よ!アニメーションの巨匠の名に恥じない。
そんな巨匠の「ホーホケキョ となりの山田くん」以来となる14年振りの新作。おそらく年齢的に見て、高畑監督の最後の作品になるかもしれない。
その感想は…
まず、水彩画風のタッチに目を奪われた。
温もり豊かで味わい深い。
最近のアニメはやたらとリアルな画とか斬新さを求めるが、原点回帰のようなシンプルさ。日本のアニメでしか出来ない表現。
今回の作品にとても合っている。
また、ジブリ作品は主題歌も話題になるが、本作の“いのちの記憶”は秀逸。作品の内容を表しており、エンディングで図らずもウルッとしてしまった。
誰もが知っている“かぐや姫”の物語。どんな話?…と聞かれても、10秒で説明出来る。
改めてこうやって見てみると、深いテーマ性があり、悲しい話だったんだなぁ…と思った。
かぐや姫の幸せの為とは言え、どんどん欲に走ってしまう翁。かぐや姫を我が妻にしようと躍起になる“高貴”な男たち。人間の愚かさを浮き彫りにする。
彼らをそんな行動に走らせてしまったかぐや姫の存在。美しさは罪とは酷な言い方かもしれないが、無理難題を突き付けたり、翻弄させたのも事実。
その罰は余りにも悲しい。
月に帰る。それは即ち、全てを忘れる事。草木、鳥、動物…かぐや姫が好きだった自然、幼馴染みの捨丸への想い、そして育ててくれた父と母への愛。
この地で生きた証し、この地で感じた幸せ、この世は生きるに値する。
先に公開された「風立ちぬ」とどちらが面白い?…と比較されるだろうが、ハッキリ言って愚問。
二大巨匠のメッセージをしかと受け止めたい。
生きる事と、いのちの証し。