「宮崎監督引退作だけど薄味に終わった」風立ちぬ Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
宮崎監督引退作だけど薄味に終わった
総合:60点 ( ストーリー:60点|キャスト:60点|演出:60点|ビジュアル:70点|音楽:75点 )
堀越二郎の半生を、飛行機作りの話と恋愛の話を通して描くが、それがどっちつかずに終わっている。元々二つの話を一緒にしているのだから当然といえばそうだが、それでもうまくまとめていれば両方楽しめたと思うのだが、残念ながらそうはなっていない。どちらの話も表面的で中途半端で、宮崎監督の自己満足にすぎない薄味な話がただ流されたという印象を受けた。
堀越二郎の飛行機作りについては、飛行機のこと勉強しています、設計しています、速度が出ていますで終了。こんなことが起きました調で技師の生い立ちを見せるだけの演出は単調で深みが無い。それに部分的に夢の幻想の話で描かれても、悪い意味で浮き足立った軽い話に見えてくる。それと庵野秀明の声は実力不足で質を低下させている。
菜穂子については、どんな人なのかすらも描写されることなく、そのためどこを好きになったのかもよくわからないままに結婚してしまって、登場人物像が全般に弱い。出会いに至る過程でどう気持ちが動いていったのかが分り辛いし、結核に苦しむ場面が少なくて、やせ衰えていく姿も描写されない。全体として現実は直視されず厳しい部分はあえて描写されない。
これで宮崎駿監督も引退か。昔から監督作品に常に登場してきた空を飛ぶ夢、そんな自分の好きなことを主題にして花道を飾りたかっのかもしれないし、興行収入としては大成功だった。
しかし厳しいことを言わせて貰えば、精魂込めたであろう引退作にしては物足りない。堀越二郎という天才の情熱も業績も彼が打ち破ってきた困難も、当時の日本の低い工業技術で世界最高の戦闘機を設計した凄さもわからなかった。ただの飛行機好きの男が技師として夢見たことや生き方と愛が、まるで夢のように過ぎ去っていったというだけ。昔から堀越二郎の話についてはいくつか本を読んでいたので、余計に実際の人物像と業績への差異もあった。監督の全盛期と個人的に思っている80年代とその前後の作品が持っていた深みや心を揺さぶるものがなかったし、期待していたものではなかった。
私はこの作品に満足はしなかった。この作品だけでなく、90年代後半からの宮崎監督の作品は必ずしも素晴らしいとは思えなかった。近年は新作が出るたびに大いに期待をしたが、いつもその期待に合う作品に出会うことはなかったし、もう期待しても駄目なのかなとも思っていた。それでもかつていくつかの素晴らしい作品を残してくれた宮崎監督は偉大であったという評価は変わらない。彼は引退するが、かつてはたくさんの感動や興奮や爽快感や躍動感を与えてくれたし、それでいい。