「宮崎駿のメッセージを素直にもらう」風立ちぬ トコマトマトさんの映画レビュー(感想・評価)
宮崎駿のメッセージを素直にもらう
6月某日、東宝試写室で鑑賞。
見終わって、エレベーターを降り、有楽町のガード下の飲み屋をすり抜けながら…涙が出てきた。
映画は、ゼロ戦の開発者の1人の半生を、タイトルにあるとおり、堀辰雄の「風立ちぬ」に重ね合わせながら描く。
主題歌は1973年リリースの、荒井(現姓・松任谷)由実19歳の時のファーストアルバム収録曲「ひこうき雲」。映画の主題に実に合った選曲。
今から70年ほど前の若者は、戦争と結核という死の入り口がすぐ近くにあった。20、30代でどれだけ多くの人が死なねばならなかったのか。
昭和、平成の平和な時代を生き、気づけば五十路の僕にとって、ただ馬齢を重ねるだけの日常が非常につらく感じられる日が続いている。
そんな自分には、宮崎作品が発する「生きる」ことへのメッセージが強烈に胸の底に落ちてきた。
本作は「生きねば。」がキャッチコピーとなり、映画の主題になっているが、物語終盤にそれを伝えられただけで、泣けた。
自分が生き続けることにもやはり意味があるということを認識させられた。素直に、宮崎駿のメッセージを受けようと思った…。
さて、映画では宮崎作品には珍しい大人の恋愛が描かれている。
一瞬、初めて「濡れ場」まで登場するか、という場面もあった。
大正の関東大震災から、戦前、戦中までの時代を描くには、実写ではどうにも陳腐になってしまう。莫大な金をかけて、セットを作りこみ、CGを駆使しないとだめだろう。
その点、宮崎アニメのタッチであれば、それがいとも簡単(?)に再現されている。
飛行機、艦船といった軍事ものだけでなく、街並み、景色などもうまく丁寧に描写されていて、見る価値がある。
主演の声を務めた、エヴァンゲリオンの庵野秀明はもちろん声優的な通る声ではないのだが、いい味を出している。違和感はない。よくできた、がんばった、と思う。
1997年の「もののけ姫」でも、「生きろ。」がキャッチコピーだった。
僕にとってはその後の宮崎作品では、「千と千尋の神隠し」と並ぶ名作、といいたい。
映画館でも、再度鑑賞したい、と思う。