「デ・ニーロを黙らせた女優。」世界にひとつのプレイブック ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
デ・ニーロを黙らせた女優。
今回のアカデミー賞では、J・ローレンスが主演女優賞を獲得。
まだ総ての作品を観た訳ではないので、何とも言い難いけど、
観た中ではこれが一番良かったかもしれない。
馴染みのないタイトルにデ・ニーロ御大を除いて地味なキャスト。
それが演技部門で全部ノミネートっていうのはどういうことか?
色々浮かんだモヤモヤと全ての疑問は、鑑賞後にスッと消えた。
精神躁鬱という主人公をどこかおかしい家族が支えている。
妻の浮気に端を発した夫の逆切れ騒ぎは裁判で異常と見なされ、
物語は治療を終えた彼が、実家に戻ってくるところから始まる。
そもそもここで思うのは、事件は彼の妻が同僚を家に招き入れ、
バスルームでその同僚と、こともあろうに二人の結婚式で使った
S・ワンダーの名曲を流しながら情事に耽った、というものだが
ブチ切れた夫が同僚を殴ったという罪状のみ、それって妻の方は
悪くないのかよ?っていう疑問。
彼が父親譲りの(デ・ニーロね)短気で怒りっぽい性格とはいえ、
だったらその妻(やたら出てくるニッキという名前)の方だって、
自宅で夫を裏切った訳でしょ?しかもあの曲使いやがって!(怒)と
彼のナンバーが好きな私は、まさかこの曲が主人公のトラウマとは
思ってなかったので、ややブチ切れそうになった。危ない^^;
この一件で彼は全てを失ってしまう。
一切の過去を振り切って、新たな人生を始めるべきと促す周囲に対し
妻への思慕(というより執念だな、これは)に固執する主人公パット。
躁鬱の症状(薬を飲まないから)が悪化して、周囲に迷惑をかけまくる。
そんな中、近所に住むティファニーという女性と出逢い、これまた
非常にエキセントリックな彼女に振り回されたあげく、妻との再会を
条件にダンス選手権への出場を促されるのだったが…。
まずはB・クーパーの、てんでおかしな演技と個性的な格好に笑える。
一見いいヤツに見えるのだが、キレるとハンパなく暴れまわる。
それが博打に狂う父親譲りだと分かるのだが、では母親はというと、
そんな夫と息子に振り回されつつ見守り役に徹している。
長男のみが災害を逃れ(爆)事業で成功しているようだが、こんな一家
なのにやけに仲は良い。完治していない息子を試合に行かせるなど、
この父親のやっていることにはまったく共感できないのだが、
子育てに失敗したー!と思っている親ってこういうケースが多いのね。
自分が悪かった、なんて思いながら結局は子供に依存して、どんどん
その子を悪循環に陥れている。子供の方も、親に悪いと思いながらも
自立しようと懸命なワケでしょ。離れよう自立しようとしている息子を
どうしてそっとしておいてやれないの!ってこっちまでイライラしてくる。
で、そこへシャキーン☆と登場するのが主演女優賞のJ・ローレンス。
御歳22歳だって?まったく見えない。もの凄い貫録と低トーンボイスに
かのデ・ニーロが完全にしてやられます。この場面はすっごい見もの!!
もう私の中では、あのデ・ニーロを黙らせた女優。ってことで、
ジェニファーは永遠に記憶されました。まぁ素晴らしいことこの上ない。
結局この物語にはどこにも完璧な人間が登場していなくて、
一見そう見えるパットの友人夫婦も、蓋を開ければ不満と問題だらけ。
自分の気持ちに忠実になることなんて、大人になったら簡単にできない、
常に周囲の期待と共感を得るのに必死になるけど、本当の幸せってのは
そんなところに転がってないんだよね。
今作でキーとなるのが、サインに気付いて。見逃さないで。ということに
なるんだけど、パットとティファニーにはすでに冒頭でこのサインが見える。
似た者同士とは言わないが、こういう直感的なものが恋愛には必須条件。
感じたものを打ち消そうとするから、この二人は常に摩擦状態になるのだ。
ニッキに執念を燃やすパットには、その状態が把握できず、業を煮やした
ティファニーがある作戦を提示して、やっと上手くいくかと思った矢先…。
あれほどデ・ニーロを言い負かしたジェニファーの、いかにも女の子らしい
演技が、最後の最後でやっと観られる。
ホントにあなたお幾つ?と聞きたくなるくらい、あの貫録にしてやられる。
B・クーパーも劇中で言ってたっけね、「きみ、いくつだ?」って^^;
子供と思って相手をしたら、いつの間にかおふくろさんになっちゃうタイプ。
(最後のキスシーンはやっぱり歳の差を感じたかな、いくらジェニファーでも)