ウォルト・ディズニーの約束 : 映画評論・批評
2014年3月19日更新
2014年3月21日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
構成の妙と名優2人の演技で魅せる「メリー・ポピンズ」誕生秘話
無愛想で厳しく、子どもに媚びず、すぐに気を悪くする、鼻をフンとならしてあしらう。しかも窓に自分の姿を映してはうっとりするナルシスト。誰のことかって? メアリー・ポピンズ。ただし映画の「メリー・ポピンズ」ではなく、児童文学者パメラ・L・トラバースが書いた原作のほうの。
ディズニーが手がけた「メリー・ポピンズ」は、ミュージカル映画としては間違いなく傑作だ。しかしお砂糖でコーティングされた世界観は原作とはまるでかけ離れている。この事実が、契約を結ぶためロサンゼルスへやってきたトラバース(エマ・トンプソン)を激怒させ、映画の製作を難航させた。「ウォルト・ディズニーの約束」は、こうした「メリー・ポピンズ」製作秘話をベースにつくられた、ものすごくエモーショナルな人間ドラマだ。
ここにはバックステージのバトル(原作者VS.製作チーム)と併行して、語られるもうひとつの物語がある。55年前のオーストラリアで、幼い少女だったトラバースが過ごすお父さんとの美しい時間、失意のお父さんに寄せる悲しみ。そうして物語が進むにつれ、観客は偏屈で頑固なガミガミばあさんの心の奥に触れることになる。なぜ彼女は、これほど頑なに作品を守ろうとするのか? それがわかるとき、泣けて泣けて仕方がなかった。
この2重のストーリーに作品世界を重ねる構成が、実によくできている。トラバースが心を許す運転手の使い方もうまいし、ディズニーを美化しない潔さも好ましい。というより、これをよくディズニーで映画化してくれた、英断だと思う(持ち込み企画なのだ)。
クライマックスはやはり、ディズニーがトラバースの心を悟り、誠意をもって話しに行くシーンだろう。ディズニーになりきったトム・ハンクスの説得力はさすが。だがそれにも増して、笑いと涙を呼ぶトンプソンの演技が絶品中の絶品! 人の好意を踏みつけるような偏屈作家がふとのぞかせる滑稽さ、そしてさびしさがいつまでも心を離れない。
(若林ゆり)