劇場公開日 2013年6月22日

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さよなら渓谷 : 映画評論・批評

2013年6月19日更新

2013年6月22日より有楽町スバル座、新宿武蔵野館ほかにてロードショー

腐れ縁にはまっていく男女の心の気色と景色がじわりと立ち上がる

さよなら渓谷」文庫版に映画監督柳町光男は印象深い解説を寄せている。小説家吉田修一に感じる映画の血の濃さを辿る監督は、過去の性的暴力が物語の核心に置かれた点で「ミスティック・リバー」を、加害者と被害者の関係という点で成瀬巳喜男乱れ雲」を想起し、男と女が「死に場所を探すように電車を乗り継ぎながら」繰り広げる「道行き」を同じく成瀬の「乱れる」と重ねてみせる。そうやって小説から「映像を頭の中で編み上げる」監督の一文にふれれば幻の柳町版への抑え難い妄想も募る。

いっぽうで大森立嗣監督のメガホンで完成した映画「さよなら渓谷」には、鈍色の空の下、冬に向かう季節の荒涼を、いっそもっともっとと求めるように歩みを止めない女がいて、黙って後を追う男がいる。そのざらりとした「道行き」の情景のそそり立ち方。小説とも、そこから想われた映画ともまた別の肌触り。“連想ゲーム”にあえてこだわるのなら70年代半ばの負け戦の気分。ジュリーの歌。♪堕ちてゆくのもしあわせだよと――腐れ縁にはまっていく男女の心の気色と景色がじわりと立ち上がる。それは「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」「まほろ駅前多田便利軒」とニューシネマ的バディ・ムービーを差し出してきた大森立嗣ならではの原作の色づけ方を思わせる。その意味では男と女の背後を追う記者の存在も見逃せない。大学野球の星だったひとりの転落と、社会人ラグビー選手生活を負傷で棒に振ったもうひとり。どろりと澱んだ日々の空しさを贅肉とした記者の裸体を鏡に切り取る映画は、彼が加害者の元体育会エースに表裏一体の自分を重ねる様を本筋然とみつめる。前作「ぼっちゃん」にもあったブサイクとイケメンの背中合わせの関係がここでもまた掘り下げられている。緑の渓谷。夏の川原。忘れたい過去と向き合う男と男の物語がひっそりと紡がれて、男と女のそれに拮抗し監督の世界を改めて射抜いている。

川口敦子

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