もうひとりの息子

劇場公開日:2013年10月19日

解説・あらすじ

2012年・第25回東京国際映画祭で、最高賞の東京サクラグランプリと優秀監督賞の2冠に輝いたドラマ。兵役用健康検査の結果、両親の実子でないことを知ったイスラエル人の青年。出生の際の手違いが明らかになり、やがてイスラエルとパレスチナふたつの家庭のアイデンティティと信念とが、大きく揺さぶられる事態に発展する。根深い憎しみからの解放を描く。

2012年製作/105分/フランス
原題または英題:Le fils de l'Autre
配給:ムヴィオラ
劇場公開日:2013年10月19日

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(C)Rapsodie Production/ Cite Films/ France 3 Cinema/ Madeleine Films/ SoLo Films

映画レビュー

5.0 この境遇の違いを乗り越える力は何処に

2026年1月12日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

僕は「臍の緒」は持っていませんが、新生児室で僕の足首に着けられていた「ビーズのアンクレット」を大切にしています。
それは水色と白の、豆つぶのような小さなビーズ。冷たくて硬いけれど陶製の丸い、つぶした太鼓型のビーズ。そこに一字ずつ並べて綴られたアルファベットが僕の苗字。
《 T·○·○·○·○ 》
「取り違え」が起こらないために。

・・

映画は
驚天動地。

それは頭を抱えてへたり込んでしまう一大事だった。
映画はそれを「起承転結」で僕たちに提示してくれます。

子供の取り違えのミスは、多い事ではないが、しかし残念ながら時々まれには起こっている事件。
病院の責任を問う訴訟も度々起こっています。
戸籍謄本には矛盾はないのです。一緒に暮らしてきて、ずっとその家で育ってきた親と子だ。それも紛れもない事実。
しかしある日「顔立ち」や「血液型」が、幸せだったそれまでの家庭を、青天の霹靂で破壊するのです・・。

日本でも、検索するとかつて14年間で32件の取り違えがあったのだと言う。だからこの “ネタ” は、世界中で多くの小説やドラマの題材になってきた。
是枝裕和の「そして父になる」は記憶に新しいが、あれは【億ションに住むエリートサラリーマンの家庭】と 【下町の貧困家庭】での取り違えだった。

・・

なんてことだ、よりにもよって
【パレスチナ】 と 【イスラエル】。

院長室での反応は、4人とも、どの役者も真に迫る表情で圧倒されてしまう。
耐えきれずに部屋を出る父親たち。
しかし部屋に残り、衝撃の思いの中で動けず、互いに顔を見つめる母親たち。長い長い絶句の中で、言葉にならない思いが交わされている。

(あのシーンで「ああ、どうしよう!どうしよう!」と僕は声が出てしまった)。

本作品では、
民族対立のパレスチナ戦争で、数十年ものあいだ、とことんまで相手の事を憎み、殺し合ってきた。「壁の内側と外側」で。
最愛の子ヨセフとヤシンが我が子ではなかったと知るまさかの衝撃。さらに
「その敵の子」が=「わが子」なのだと知らされる絶望。
あれは親の目線でダブルパンチだ。

劇中ぼかされているが、間違いなく死んだ末の弟は「敵」の攻撃や、破壊されたガザの病院の機能不全によるものだろう。

子供たちにとっては
本作は想像を絶する自己分裂を彼らにもたらす ―
「自分とは、まさかの受け入れられない『敵』であった」というアイデンティティの転覆。
父と母と兄を同時に失うとんでもない喪失感。

苦しみにひしがれるこの二人を通して、二つの国家が人間に対して犯してきてしまった罪過がえぐられる。
それは政治や観念や机上のプロパガンダではなくって、個々の家族が、そしてその愛が破壊されてしまう「実体のある嘆きの姿」として、
悲劇が描かれるのだ。

・・

母オリットを演じたフランス生まれのエマニュエル・ドゥヴォスが見事。多くの苦しみの中から絞り出すヘブライ語での台詞で母を演じ切った。
もう一人の母ライラ。アラビアの母の悲しみの表情には、ただただ胸が潰れるしかない。混乱の中、息子たち、そして夫への愛が抑えても抑えてもあふれ出す。

眠れない父たちは真夜中に荒々しく車を洗い、壊れた車を直し続けた。彼らはどうやってこの事態を洗い流して、そして家族の壊れたアルバムを修理する事が出来るんだろうか。

・・

昔 西ドイツに留学していたうちの教授が、
「ベルリンの壁崩壊」の知らせを耳にして「おおお、、おお、、」と言ったきり教室で、僕の目の前で立ち尽くして動けなくなっていた。

政治家たちはこの “危険な映画” を恐れて抹殺しようとするだろう。「蟻の一穴」をきっと塞ごうとするだろう。

たとえ今現在のこの有り様を見ようとも、
それでも壊れなかった壁は、この世には、人類史上一つも無い。一つとして存在しない。皆無だ。

必ず毀 (コボたれる障壁を、僕たちは信じちゃいけない。
試されていると思う。

・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・

【メモ】
・本作、小柄な若い俳優ヨセフとヤシンを使ったことで、一目で親と子が判る工夫もしてくれた。顔立ちの違う俳優も上手に使った。

・せっかちなフランス母の先走りで物語は中だるみする事なく先を急ぐ。

・ストーリーは出来過ぎかもしれない。楽観的過ぎるかもしれない。
でも何とかして工夫をして「夢」を見るための力作だ。
⇒「武器によらないあの壁の克服」と
⇒「隔ての中垣を打ち壊す親子の情愛」。
その勝利を、監督が イマジン しているのがよく判る。

・脚本秀逸。母たちの直感、子供たちのタッグ、そして時間はかかったけれど父親たちの変革が語られた。
それらが「対面」と「食卓」と「歌」からきっと叶うのだよと、信ずべきメッセージとして教えてもらえた。

・「テルアビブ オンファイヤー」もとても良かった。国籍ではなく人そのものが見えてくるから。これこそが映画の使命だと思う。

・ハグ、ひざ枕、キス、女性監督。

・男たちも自分の内なる敵と闘っている。ヨセフの父親の鼻に「鼻血止めのチリ紙」が見えた ( 編集カットされているが喧嘩をしたのだろう)。

・海や街での若者たちのシーンがこの物語を息苦しさから救ってくれる。

・2つの家族がいい顔になる。

2023年から再燃して、今なお激しく続くガザへの猛攻が辛い。死者は7万人を超えてしまった。
この映画の「希望のラストシーン」の後に、それが彼らの上に起こっている現実が悲しくてどうしようもない。二つの家族がまた元に戻ってしまって、ヨセフのお父さんは大佐として銃を取ったのだろうか。

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きりん

4.0 『もうひとりの息子』――血と環境のあいだに芽吹く新しいアイデンティティ

2025年11月25日
PCから投稿

フランス人監督ロレーヌ・レヴィによる映画『もうひとりの息子(Le fils de l’autre)』は、イスラエル=パレスチナという現実の境界を舞台に、血縁と環境、そして「生まれた場所」によって規定されるアイデンティティの揺らぎを描いた作品である。物語の中心には、出生時の取り違えによって異なる民族の家庭で育てられた二人の青年がいる。その設定は偶然でありながら、社会という装置がいかに個人の思想や記憶を形成していくかを映し出す装置でもある。
この映画が興味深いのは、イスラエルやパレスチナといった宗教的・政治的な対立の只中を、外部者であるフランスの視点から描いている点にある。20世紀初頭、イギリスの三枚舌外交によって中東に複雑な亀裂が生じたとき、フランスもまたその一角に関わっていた。ゆえに本作には、フランスが「かつての加害者でありながら、第三者として見つめ直す」という歴史的な自省の意図も読み取れる。レヴィ監督は政治的メッセージを声高に語ることなく、静かな観察者として人間の内面を通じてその問題を照らしている。
日本に暮らす私にとって、この地域の現実はメディアを通してしか知り得ない遠い出来事のようにも感じられる。しかし、血と記憶、家族と信仰をめぐるこの物語は、国境を越えて普遍的な響きを持っている。人はどこで生まれ育つかによって思想が形づくられるが、その形成されたアイデンティティもまた、他者との出会いによって変化しうる――この映画の終盤は、その“変化の芽生え”を静かに提示して幕を閉じる。
同じく「取り違え」を主題とした是枝裕和の『そして父になる』(2013)は、血縁よりも時間の共有によって“家族”が生成される過程を描いていた。対して『もうひとりの息子』は、国家と宗教というより大きな枠組みの中で、対立から和解へと向かう人間の精神の可能性を描く。両者に共通するのは、“偶然”を通してアイデンティティの再構築を試みる視点であり、時代や文化の違いを越えて響き合うテーマである。
現地ロケによる光と音のリアリティも特筆すべきだ。風景や街の音、祈りの声といった要素が、登場人物たちの内面を象徴するように配置されている。レヴィ監督は、国家や宗教という大文字のテーマを、日常の小さな息づかいの中に落とし込み、人が「他者とともに生きる」という希望のかたちをそっと提示している。異なる土地で生まれた者どうしが、互いの中に“もうひとりの自分”を見出す――その瞬間こそが、この映画の真のクライマックスである。

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KAPARAPA

5.0 家族と周囲の温度差にも注目

2023年11月5日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

子どもの取り違え映画といえば結構何本かあるのだけれど、この作品が他と比べて特別なところは、パレスチナ人とイスラエル人というところだろう。

今、再び交戦状態に入ったことからも分かるように、関係はよろしくない。解決の可能性を探すことすら困難なほどこの問題は大きい。
極端な話、本作に出てくる家族は互いに敵同士であったのが、ある日突然家族になったようなものなのだ。

当人たちのアイデンティティの問題、家族同士、息子と息子、父親と父親、母親と母親、息子と父親、息子と母親、兄弟と、そして周囲と。無限にも思えるほどの組み合わせそれぞれに温度差、ドラマがある。
その多くにおいて、明白にされるわけではなくとも穏やかな融和に着地するところがいい。
つまり、メチャクチャ面白くて、メチャクチャいい映画なのだ。

パレスチナ人とイスラエル人、二つのアイデンティティを有した二人の息子は、事実を受け入れ、いがみ合いではない未来の可能性を示す存在に思えた。

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つとみ

3.5 大きな分断 それでも人間は愛する

2023年2月2日
iPhoneアプリから投稿
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adamsmith

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