劇場公開日 2013年4月19日

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「民主主義の姿」リンカーン ノリック007さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0民主主義の姿

2020年9月21日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

映画は、ゲティスバのーグ演説の再現で始まり、第二次大統領就任演説で終わります。

時代は古く、日本では幕末の時期に当たります。
幕末の日本では、少数の人々が密室で決定し、戦争で決着させました。
幕末の頃のことは、正確にはわからないので、教科書でさえ恣意的に記述されている状態です。
現在の日本は、少数の人々が首相を密室で決定し、形だけの総裁選挙を行うだけで、なぜ首相に選ばれたのかについては推測にすぎず、どのようなことが行われていたのかを知ることさえできません。
現在の日本は、法律について会議で議論せず、記録に残らず、強硬採決しているので、どのような議会工作をしているのかさえ分かりません。
日本は、幕末の頃と現在とで違いはなく、進歩も、進化もありません。

米国の政治と戦争に関する映画です。
日本とは違う米国の政治についての知識と、日本ではない米国の地理に関する知識が必要です。
リンカーンが置かれている政治状況と戦争状況を理解し、リンカーンが行ったことが理解できないと楽しめない映画です。
米国では、会議で議論し、記録し、採決しているので、正確に当時のことがわかります。
ジョリー夫人は、リンカーン大統領に、自分の意見を、空気を読まず、忖度することなしに、率直に自分の意見を述べています。
政策に対して自分の意見を持っている日本人はいるのか、首相に対して言えるのか、日本の首相は、有権者の政策に対する意見を聞き出すことができるのかと考えさせられるシーンです。
議会工作は、理解できれば、楽しく鑑賞できます。

リンカーンの有名なゲティスバーグ演説と第二次大統領就任演説を知らないと何も感じることはできないです。
高木八尺・斉藤光訳『リンカーン演説集』を購入し、読んでみることをお勧めします。
映画を鑑賞するだけでは、理解できないので、分からないことは、分かるまで自分で調べる必要があります。
色々なことが理解できるようになると、リンカーンの何気ない一言一句が、名セリフになり、心に響きます。

複雑な時代だからこそ、「我々は、始まりは等しい、それが原点だろ。差がない、それが公平さだ。それが正義だ」という原点に回帰するべき「今」観るべき映画です。

ノリック007
小林 宏さんのコメント
2020年12月11日

 ノリック007さん(2020.9.21.)の、ゲティスバーグ演説を理解するために岩波文庫の「リンカーン演説集」をご推奨されることについて、反対はしませんが、同演説への正確な理解を得るためには、同書が多くの誤謬を含んでいることを認識しておく必要があります。最初の方から申しますと、 ①「国有墓地の献納」の「国有墓地」に「ナショナル・セメトリ」とルビを振っていますが、同墓地は当時まだ国有ではありませんでした。そもそも「ナショナル」は「国有」や「国立」を意味しません。
 ②"conceived in Liberty"を「自由の精神にはぐくまれ、」としますが、"Liberty"を「自由の精神」等とするのは、的(まと)を背にして弓を射るにも等しい所業で、訳者の独創にしか過ぎません。私見によりますれば、"Liberty"とは直接的にはGeorgiaを除いた12 coloniesのことを指し、 "a new nation"誕生(Jul. 4, 1776)を遡る、Oct. 20, 1774にLibertyなる12 coloniesの代表者がthe Associationに調印したことを「Libertyへの着床(Libertyからすれば妊娠)」と見立てました。これが"conceived in Liberty"の意味です。
 ③同書は続いて"and dedicated to the proposition that..."を「・・という信条に捧げられた、」としますが、"proposition"とは「結婚のプロポーズ」のように、本来応諾乃至拒絶の反応を予定します。"proposition 1"といえば「議案 1」で、"resolve that... (第10文)"即ち「右決議する」を予定します。第1文の"proposition"は第10文のresolveまで続くのです。同書にはこの流れがみえていません。
 ④同書第10文では「人民のための、」を除いて、「ため」を4度用いていますが、原文の文脈を無視した理解という他はありません。
 アマゾンKindle 版の拙著「The Gettysburg Addressを読む」をご覧頂く機会があれば幸いです。

小林 宏