劇場公開日 2013年4月19日

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リンカーン : 映画評論・批評

2013年4月9日更新

2013年4月19日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー

今も世界中のどこかに生きているはずの「リンカーン」たちへ

その昔、アメリカは血まみれであった。もはや何が正しいのか誰が悪いのかも分からず、とにかく皆生きるために闘って死んでいった。あの「プライベート・ライアン」の冒頭を更に上回る現実感が怖過ぎる冒頭の戦闘シーンは、そんなアメリカという国の過酷な生い立ちを、血と汗と涙によって映し出していた。

それが終わると政治闘争が始まる。奴隷制度と政権を巡る言葉による闘いである。しかしその闘いのまっただ中にいるリンカーンはどこか冷え冷えとしていて、血と汗と涙のどこからも離れて見える。リンカーンを演じるダニエル・デイ=ルイスのこわばった表情の所為なのか、それともその若干の猫背の姿勢の所為なのか。とにかく政治の現場の武器としての言葉の外側に、リンカーンがいる。

一方リンカーンの声は甘くまろやかで、それだけ聴いていてもうっとりする。いつか自分は殺されるだろうという予感に満ちた甘美さが、その声を作り上げているのだろうか。死人のみが持つクールな艶やかさがその声を更に甘美なものにして、それゆえ彼はそこにかろうじて存在する。そんな危うい存在としてのリンカーンが堂々と映し出されている。キャメラは彼を映すというより、彼の声を映そうとしているのだろう。この映画が戦争映画にも政治映画にもならないのは、それ故である。血まみれの果てのスイートな愛が、この映画を語るのだ。つまり「リンカーン」とは、男たちの血まみれの闘争の外側に生きようとする幽かな意志のことなのではないか。今も世界中のどこかに生きているはずのさまざまな「リンカーン」たちに、この映画は捧げられているはずだ。

樋口泰人

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