「言葉遊びしているだけ」リンカーン Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
言葉遊びしているだけ
総合60点 ( ストーリー:60点|キャスト:70点|演出:65点|ビジュアル:75点|音楽:65点 )
どのような状況で何が行われているのか、事前知識が無いと理解が難しい。たくさんの人物が登場し、それぞれの立場がある。グラント将軍・リー将軍くらいしか知っている名前が出てこないのに、誰がいて何をしているのかもよくわからない。単にアメリカ近代史を履修していない私の知識不足が原因ではあるのだが、全体像を掴めず今一つ展開にはまれなかった。
そして一番の問題は、登場人物たちが数々の現実に直面してもなお歴史を作っているというよりも、どうも言葉遊びをしているだけのように思えたこと。聖書の言葉が出てきたり、ユークリッド数学が出てきたり、理想を主張したり、そんなことを語られるのがわざとらしい。それっぽいかっこいいことを言っているだけで現実感がないし、実際に起きていることへの緊迫感も薄い。これでは大問題に立ち向かって新しい社会を作ろうという本気の気概が登場人物たちから見えてこず、現場から離れた場所で現実に直面することもなくただ机上の空論を弄んでいるように思える。
だいたい激動の時代にこれだけのことをするのに主人公は何があっても悩みもせず苦悩もせず真っ直ぐに理想の道を進むが、それがそもそも嘘っぽい。本当にこのやり方でいいのか、理想が実現するのか、障害を乗り越えられるのか、政敵を打ち破れるのか、現実で本人が間違いなく感じたそのような心の葛藤やのしかかる重圧がここにはない。作品中リンカーン最大の問題に見えて本人が唯一感情をむき出しにしたのは、奴隷解放ではなく息子の軍隊入隊だったしそれが彼が目の前で直面した現実だし、そんな姿にはがっかりする。
そんなわけで登場人物にもあまり共感も出来なかったし、全体に質感は高いが話だけしている展開に盛り上がりも少ない。長い映画だし途中ですっかり飽きてしまった。