ルビー・スパークス : 映画評論・批評
2012年12月4日更新
2012年12月15日よりシネクイントほかにてロードショー
ボーイ・ミーツ・ガール映画をひとひねりした恋愛ドラマ
19歳でデビューし天才小説家ともてはやされたカルビン(ポール・ダノ)だが、第2作を書けないまま10年の時間が過ぎた。カルビンが夢で見た女をルビーと名づけて文章を書き始めると、ある朝、ルビーが目の前に現れ、二人は恋人同士になる。自分が創作した女は意のままだ。カルビンがそう書けば、ルビーはフランス語を流暢に話すし、急に踊りだすのだ。
ボーイ・ミーツ・ガール映画の定石どおり、カルビンとルビーは仲たがいをし、カルビンは彼女との出会いと別れをもとに小説を書くが……。
この映画にはとげのように引っかかる場面がいくつもある。例えば、ルビーがイルザ(イングリッド・バーグマン)の行動を批判的に語る場面だ。飛行場でリック(ハンフリー・ボガート)は、カサブランカに残るというイルザに、「君はきっと後悔する。それは今日や明日のことじゃないだろう。だが、すぐのことだ」と言い、「ぼくたちにはパリの思い出がある」と送り出す。「カサブランカ」は男性なら一度は言ってみたいという類の名せりふの宝庫だが、この男性優位の映画が作られたのが70年も前だったことに改めて気づくのである。
ボーイ・ミーツ・ガール映画の貌の陰には別のものが潜んでいる。死ぬまで踊り続けることを運命づけられた赤い靴をルビーがそっと置く場面など、映画的記憶を刺激する巧みな脚本に感心する。女優ではなく、脚本家ゾーイ・カザンの映画を見逃してはならない。
(品川信道)