劇場公開日 2012年12月21日

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「重たい話で長めだがテンポが現代的で歌も上手い」レ・ミゼラブル(2012) マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0重たい話で長めだがテンポが現代的で歌も上手い

2013年1月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

幸せ

100門(大砲の搭載数)はあろうかという座礁した大型帆船を乾ドックに引き込むため集められた大勢の囚人たちが、荒波を浴び“囚人の歌”を唄いながら何本もの太いロープを引くオープニングは圧巻で映画ならではだ。
続く“バルジャンの独白”も、ヒュー・ジャックマンの歌声は芯がしっかりしてよく通る。

バルジャンと運命の糸で繋がるファンティーヌが職場から追い出された嘆きを歌う“夢やぶれて”はこの作品の中で最も耳に馴染むナンバーだが、アン・ハサウェイが心の奥底からこみ上げるように切なさを吐露する。

このミュージカル、台詞のほとんどが歌ということもあって、ミュージカル特有の〈いきなり歌〉という突飛さがなく自然に歌に入るのが特徴だ。そして一切ダンスがないのが特異だ。

ほかに聴きどころは、青年マリウス(エディ・レッドメイン)への片思いを唄うエポニーヌ(サマンサ・バークス)の“オン・マイ・オウン”。なかなかの歌唱力だ。コゼット(アマンダ・セイフライド)とマリウスが互いの愛を打ち明ける“心は愛に溢れて”では、ラストにエポニーヌが被せてきて、これも聴き応えがあるナンバーだ。

人気も実力もあるスターを揃えて、しかも唄わせれば本職顔負けの歌声を聴かせるのだから、皆、芸達者だ。もっとも、生半可な才能ではハリウッドスターの座に君臨することはできないということだろう。
ちょっと残念だったのはジャベールのラッセル・クロウ。好きな役者の一人だが、バルジャンが真の悪人ではないと知ることで正義と罪の間で揺れ動き、信念が根底から崩れ去るいわば精神破綻へ突き進む歌にグッとくるものがない。押し殺した台詞の役が多いせいか、歌に声質が合わなかった。

パン1枚で19年も服役するというのは現代では考えられない話は古くさいが、人が正しく生きる道を何びとも犯してはならないというテーマは不変だ。だからこそ現代人も不運なファンティーヌや権力に抗って死にゆく学生たちに涙し、執拗なジャベールや身勝手な宿屋の亭主と妻は苦々しく思いながら観てしまうのだ。

マスター@だんだん