「醜態の痛みを。」脳男 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
醜態の痛みを。
原作はまったく知らなかったので、初めてチラシを見かけた時、
まさかこれを「のうおとこ」なんて、そのまま読まないよねぇ…?
って思ってたら、予告で石橋のじいさんが「のうおとこと…」って。
えぇ!そのまま読むんだ!?って、そっちの方が衝撃だった(爆)
生田斗真がTVに出る度に「役作り」に多大な労力を注ぎ込んだ
という話をしていたので、彼の役に対する思い入れはよく分かった。
瞬きしない訓練とか、豪華なものは食べないとか、まぁ色々と…^^;
元の顔立ちが可愛いので(ねぇ~)とても殺人鬼には見えないだろう
というところなんだけど、そこが逆に新鮮だったのかも知れない。
もの凄い迫力(!)とは思わないが、あんなに車に轢かれたのに
なんで死なないのか?意味が分からないほどの衝撃を受ける(汗)
どうもこの作品、映像における凄さと不気味さに反して、
それ、おかしいよね?絶対無理だよね?というツッコミ所が多く、
後半に近づくにつれて、段々テンションが下がってきてしまう。
爆弾魔(江口刑事がTV出演の際、完璧にネタばらししてました)が
二階堂ふみ、なのは染谷将太も出ているところから、あ~またか、
という感じなんだけど、この二人がグルだとかいうんならともかく、
事件的にはゼンゼン関係ない。レズ女が相棒で手伝ってた前半は
ともかく、後半のあの病院全体爆破作戦なんて、あの子ひとりで
どうやって仕掛けるわけ???身体があんな状態だというのに。
というわけで、ヘンだ、おかしいという箇所があまりに多いのだけど、
反面リアルで冷酷な箇所もあって、子供が黒焦げになってバスから
出てきたり、松雪の母親が鬱で座っているその姿、など、映像面での
妥協がない。江口が部下を失ってワナワナ~としゃがみ込む姿など、
恐ろしくて今漏らしたんじゃないか?と思うほど(ゴメンね)リアルだ。
陰惨な死体を堂々と観せる作品でも、生きた人間の目を背ける姿は
なかなか観せないものだが、避けると永遠にその醜態は伝わらない。
リアルに描写することで受けた「ショック」はずっと心に刻まれるのだ。
映画とは見せ物(者)だから、本来そこで判断力を養えるはずなのに、
魂のない偶像をリアルと曲解させる映像表現が多いと痛みを感じない。
痛みを感じないから平気で残虐な行為に走れるんじゃないのか。
感じない、といえば本作の主人公も何も感じない体質?なのらしい。
特異な性質の人間を扱っているテーマながら、物語は松雪が演じる
医師の葛藤がかなり色濃く描かれている。犯人と対峙する主人公と
いう設定なのに、その「更生」を願うという心意を問うような作品の中に、
「息子のまなざし」という秀作があるが、果たして被害者意識からその
行動がとれるかどうか。ラストの主人公の表情、あれにやや騙される
感が強いが「シャッターアイランド」のラストで主人公が残した表情に
よく似ていた気がする。どっちととればいい?の謎が残る。
ただ松雪医師が言うように、心のない人間など存在しないと思いたい。
(独りで生まれてきたくせに、なぜ独りで死なずに他人を巻き込むのか)