群狼
劇場公開日:1948年11月23日
解説
新東宝のプロダクション・システム確立後、竹井プロ第一作として「黒馬の団七」「富士山頂(1948)」の筈見恒夫が製作を担当し、脚本は八木隆一郎、志村敏夫が共同で執筆した。監督は市川崑につぐ志村敏夫の監督昇進第一回作、カメラは「富士山頂(1948)」の鈴木博が当たる。演技者は「青蛾」(松竹)の佐分利信「富士山頂(1948)」「生きている画像」の藤田進、「富士山頂(1948)」「肖像」の三宅邦子、「三百六十五夜(1948)」の堀雄二、大日方伝等が出演する外筈見恒夫の愛児が子役として登場する。
1948年製作/87分/日本
劇場公開日:1948年11月23日
ストーリー
杉谷峻一は、温厚で家庭を愛する善良な小市民で、銀行の支店長を勤めていた。妻の和子は貞淑であり、一子良一は仲々の利口者で、彼の家庭は何の波風も立たないが、唯一つの欠点は峻一がのん兵衛で、帰宅の遅い事だった。彼の弟の雄二は大陸から帰還して、兄の所にやっ介になっていたが、ある闇市にとんかつ屋「シラノ」を経営し始め、峻一はそれをいいことにして店の常連となっていた。御多分にもれず、宮島一家の与太者もこの店に出入りし、何かとにらみを利かしていた。ある日、良一からせがまれていた三輪車を買って、久し振りにわが子の喜ぶ顔を見ようと思い、夜更の街を酔いながら歩いてくると、ガード下の暗闇で、「宮島、貴様は」という悲痛な声、それと供に、数人の男が刃物を光らせての大乱闘、二個の惨殺死体!息のつまる一瞬だった。酔いもさめ果てて、ぼう然としている峻一に二人の男が近づいた。「旦那、いまの現場、見も聞きもしなかったね」「身の為だぜ。旦那一人眠らせるのはわけないよ」「お宅まで送って上げるよ」峻一は蒼白になって家の格子戸を開けた。この日から峻一は人が変わったようにふさぎ込んでしまった。三輪車を楽しみにしていた良一との約束も今や一片のほごだった。一方、雄二は相変わらずのとんかつ屋だったが、和子が連れてきた昔の恋人で、今、女学校の教師をしている鶴代と旧交を暖め、お互いに愛していることを確認し、雄二は短兵急に結婚を約束した。雄二は早速峻一に報告したが、何故か彼は興味なさそうに「それはよかった」と語るだけだった。銀行に行っても彼は何か不快な顔をしていた。「警察から電話です」彼はハッとした。出頭して捜査主任の所に行くと、彼が買った三輪車がおいてある。主任の恒川は、現場目撃者としての彼の証言を求めるのだった。だが、怖ろしい与太者のことを考え、峻一は全く知らぬといった。実は二人の与太者が自首しているのだが、恒川は本当の犯人であるボスが背後にあると察し捜査の手をゆるめず証人を探しているのだった。兄の様子から真相を知った雄二は激怒し、兄の不甲斐なさを責めたてた。だが、妻子を思うとなかなか彼の腹はきまらない。雄二は店に来た与太者を追払い、けんかを売ってくる相手を得意の唐手で倒した。雄二は警察に連行されたが街の民主化を願う彼は、兄の関連する殺人事件を恒川警部に報告した。事件は一転した。峻一も今や堅い決意で暴力否定の証人となろうと考えた。その時愛児の良一が何者かに誘拐された。和子は泣きながら、無茶な証言をしようとする夫をなじり、峻一もまた子のために前言を否定しようとした。雄二は口惜し涙に暮れた。警察は直ちに非常態制をとったが、和子は警察を信用せずただ泣いていた。警察は遂に宮島を彼のアパートで捕ばくした。乾分の辰が雄二のために裏切ったのだ。そして、街は明るくなった。群狼は一掃されたのだ。杉谷家の庭では良一を中心にむつまじい一家の姿が陽光に映えていた。