お夏清十郎

劇場公開日:

解説

江戸時代播州姫路で実際に起きた駆落ち事件を題材とした恋愛悲哀映画。監督は木村恵吾。出演は市川右太衛門、高峰三枝子ほか。

1946年製作/84分/日本
配給:大映
劇場公開日:1946年7月11日

ストーリー

泰平の喜びも長閑な元禄の頃、春爛漫と花ざかり、花見客のさんざめく賑わいもよそに、ここ米問屋但馬屋の手代清十郎が、泣いて彼を口説く但馬屋のお夏を慰めていた。その頃名うての但馬屋も、ちょっとした手違いから破産に頻していた。その窮境を救うためには、今、日の出の勢いの回船問屋那波屋の道楽息子の甚太郎が、お夏に懸想し、但馬屋の番頭頭丈左衛門をそそのかしてお夏を嫁にくれれば援助を惜しまぬという申し入れに承諾するよりほかにない但馬屋九右衛門だった。そしていよいよその婚礼の日が近づいているのだった。清十郎は既に数多の女達との情事に飽き果て、戯れの恋はすまじと心に誓っていた。「のう清十郎、女は所詮弱いもの、頼む支柱がのうてはかなわぬのじゃ、那波屋から逃れるためにはこのわしを連れて逃げて下され……家のため暖簾のため捨てるにはこの若い生命が痛ましいとは思いやらぬか、のう清十郎」処女の羞じらいも居て、一途に思いつめたお夏の心からの告白に清十郎はかってない胸のときめきを感じた。お夏の切なく縋る姿に真の「女のまごころ」と情熱を見出してともすれば惹かれそうにもなるのであった。だがお夏は主家の娘である。自分の地位がどんなところにあるかを瞬間思って理性が抑えるのである。しかしなおもひたむきに激しく迫るお夏の情熱にさすがの清十郎もついにほだされ意を固めるのだった。もうそこには外の喧燥も、ざわめきもないただ二人の愛の世界があるのみだった。そして二人は婚礼の前夜、大阪に向かって互いに手を取り出奔したのである。その夜二人は初めて相擁した。しかし追手は直ぐ差し向けられ二人は捕らえられた。はかない一夜の自由であり幸福であった。かくて二人は引き離されお夏は座敷牢に、清十郎は奉行所に引き立てられて、礫にされることになった。それを街を流れる唄で知ったお夏の胸は、張り裂けるようだった。

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