人間であるために
劇場公開日:1974年4月24日
解説
大阪の一老弁護士が提起し、その後、東京の青年弁護士がうけついだ、いわゆる「原爆裁判」を描き、現在大きな社会問題となっている被爆者に対する援護及び補償問題を追求する。脚本・監督は高木一臣、撮影は幸田守雄。
1974年製作/100分/日本
配給:その他
劇場公開日:1974年4月24日
ストーリー
昭和二十八年の冬、広島の街を、長崎の街を、そして東京を忙しくかけまわっている一人の老人がいた。大阪の岡本弁護士である。原爆の投下行為は、人類史上、最大の殺人行為であり、日本政府は、この損害賠償を行う義務があるという、いわゆる「原爆裁判」をおこすための準備である。しかし、岡本弁護士に対する周囲の眼は冷く、非協力的だった。こうした中で大阪の岡本法律事務所の人たちと、東京の一青年弁護士・松井だけが、この岡本をささえていた。最初、岡本は、アメリカの友人たちの協力で、アメリカ本国にて裁判を行おうと計画したが、それには莫大な費用が必要で、とても一弁護士に都合のつく額ではなかった。それではと、彼は日本政府の責任を追求すべく、昭和三十年四月、世界で初めての原爆裁判が東京地裁に提訴された。しかし、それから八年、東京地裁は「国際法違反ではあるが、被爆者には損害賠償の請求権はない」という判決を下し、結審となった。この間、この裁判に心血をそそいだ岡本弁護士は、脳溢血で倒れ、その遺志を受けついだ松井弁護士は多くの人たちの協力のもとに、八年の長い闘いをやりぬいたのだった。しかし、被爆者の病状は年につれて悪化し、死亡者はふえ、被爆者二世は自分の境遇を周囲にひたかくしにしなければ、生活することすらできないところまで追いやられた。岡本を、松井を、それをとりまく人たちは、原爆をもう一度、人間が人間として、人間の立場から静かに怒りをこめて、みつめようとしはじめていた。