たそがれの維納
解説
「未完成交響楽(1933)」に次ぐヴィリ・フォルストの第二回監督作品でシナリオもフォルスト自身の手になったものである。主役はウィーンの舞台で評判のパウラ・ヴェセリーと「泣き笑ひの人生」のアドルフ・ウォールブリュックとの二人で、「ガソリン・ボーイ三人組」「神々の寵児」のオルガ・チェホーワ、「南の哀愁」のワルター・ヤンセン、維納の舞台出のヒルデ・フォン・シュトルツ、ペーター・ペーターゼン等が重要な役を勤めて助演する外、ユリア・セルダ・ユンカーマン、ハンス・モーザー等も出演している。キャメラは「未完成交響楽(1933)」「黒騎士」のフランツ・プラナーで、「未完成交響楽」と同じくウィリ・シュミット・ゲントナー指揮の下にウィーン・フィルハーモニー・オーケストラが演奏している。オーストリアザッシャ作品である。
1934年製作/オーストリア
原題または英題:Masquerade in Vienna Maskerade
ストーリー
一九〇五年のウィーンの春、カーニヴァルの時の出来事である。外には雪が降っていたけれど舞踏会は賑やかだった。その夜の福引でチンチラのマフを当てたのは宮廷音楽指揮者パウル・ハラントの許婚アニタである。同じこの会に来た当時一代の流行画家ハイデネックは、その美貌とともに女出入りで噂の高い男であったが、かねてアニタとは浅からぬ縁がある。ところが彼は今夜はアニタを顧みはせずにパウルの兄のハラント教授の若い妻がゲルダの姿に見とれゲルダに今夜自分のアトリエに来いと言う。ゲルダは男に魅されて舞踏会を抜出して彼のもとへ行ったところ、ハイデネックは彼女の面にマスクをかけ、腰にアニタから借りて来たマフを纏わせ裸体画を一気呵成に描き上げた。事件というのはこれだけだったが、この仮装舞踏会と題された画が翌日雑誌の表紙に載ってウィーン中の評判になった。すると画のモデルの持っていたチンチラのマフから醜聞を察したのはハラント教授で人の許嫁としてあるまじき所業と弟に事件の処置を迫った。そこでパウルがハイデネックを訪れモデルの名を訊ねると、ハイデネックは困ってパウルの携えた楽譜から思いつきドゥーア嬢である、と答えた。ところが、奇なことには本当にこのドゥーア(長調)という名を持った娘がこのウィーンにいたのである。M侯爵夫人の小間使をしている温順しい娘である。そしてハイデネックはやがてドゥーアと相知ったが、この娘の潔らかさは、さしも悪魔に落ちた彼の心をも惹いた。そして以後ハイデネックの画風すら一変して聖なる姿を描く様になったのである。だが、それから暫くして今夜ウィーンでカルーソーの初舞台が行われるという日、M侯爵夫人邸で催されたお茶の会で、ドゥーアはハイデネックに関するアニタの中傷を耳にした。で、ドゥーアの胸は破れたが、アニタはそれに飽き足らずして更にドゥーアを訪れたハイデネックをピストルで射った。憎い恋人とは思ったが、傷ついた身を見てはその心も失せ、ドゥーアはカルーソーの歌うオペラに馳けつけハラント教授に手術を頼んだ。だが、教授はふとした機会から愛妻がモデルである事を知りハイデネックと絶交していたのだった。しかし、ドゥーアの切なる願いにより教授は傷者を診に行った。傷は大した事はなかった。そしてその際、教授はアニタが狙撃した本人である事を知り万事を了解し総てを独り己れの胸に納めた。温室の中ではドゥーアはハイデネックと相擁していたが、外では雪は未だ降っていた。
スタッフ・キャスト
- 監督
- ビリ・フォルスト
- 脚本
- ビリ・フォルスト
- 原作
- ビリ・フォルスト
- 製作
- カール・J・フリッチェ
- 撮影
- フランツ・プラナー
- セット
- カール・ステパネック
- 音楽監督
- ウィリー・シュミット=ゲントナー
- 音楽演奏
- ウィーン・フィルハーモニー・オーケストラ