「スペース」鳥 Editing Tell Usさんの映画レビュー(感想・評価)
スペース
#アルフレッドヒッチコック (#AlfredHitchcock) 映画シリーズ第2弾。
今回取り上げるヒッチコック作品の特徴は、スペース。
ここでいうスペースは、時間的スペースで、視聴者が見ている間に感じる間のようなものを2時間の映画の中で大きく捉えたものとしましょう。
最近の映画で、なんだか話の内容がよくわからずに終わってしまった映画はないですか?ミステリーなのに解決しなかったり、ヒーローものなのに敵を倒さずに終わってしまったり。。。
そういう映画のほとんどは、その映画を通して婉曲的にテーマを伝えたいという作品ばかりです。
ヒッチコック作品の中にも、いくつか想像を裏切るストーリー展開のものがありますが、この作品 #鳥 はその最たるものでしょう。
多くの視聴者は、このような映画を見た後に、
「なにこれ?全く意味わからんわ。見て損したー。」
という人もいれば、
「これは深い、奥に眠っているテーマを考えると、社会情勢や監督の伝えたいことがわかる。」
という人もいます。
どちらも、監督が意図した視聴者の感想ではないため、そういう映画は素晴らしい映画とは言い難いでしょう。しかし、そういう映画がたくさんあるのも現実。
そういう、深すぎ映画と一線を画すのがヒッチコック映画。
この映画を見て見ても、おそらく、ながら見だったり、携帯片手に見ているようでは、「なにこれ?」状態になるでしょう。
しかし、120分、映画を享受することができれば、途中60分程度で、これはミステリーではない。この鳥たちの謎解きはないな。と感じることができるはずです。そうすれば、そこから視聴者の目線は、鳥たちに襲われる人々へと向くはずです。それを、映画評論家は「鳥の目線」と呼びます。
その映画の途中で、この作品はミステリーではないと感じさせるもの、そしてそこから映画内の人物たちに焦点を当てさせるものが、”スペース”です。
なにがスペースを生むのかというと、それはカメラワークであり、編集であり、音楽であり、演技であり、色々な要素があります。
例えば、カメラワークだと、必要以上の長回しがあったり、どこまでもキャラクターについていくような動きがあったりします。この不自然さに視聴者は気がつき、そこから、無意識にキャラクターの内側に思考を移すことになります。
映画の中での時間経過は5日間。それ以外のことはほとんど語られませんが、その不自然なスペースの間に、視聴者はそれまでの情報を整理し、さらにはそのスペース自体からもそのキャラクターを感じ取り、キャラクターを作り上げていくのです。
音楽でもわかりやすいですが、この作品の音楽ちょっとでも口ずさむことができますか?
このように、違和感を自然に作り上げることで、意識下でヒッチコックのリズムに乗せられちゃうんですね。
だから、終盤のホラー演出は際立ってるし、エンディングにも納得がいきます。
スペースがない映画というのは、コメディーやアクションに代表されるように、気分爽快!日常は忘れよう!系映画です。そこにもいい面はたくさんありますが、もし、ドラマやサスペンス、サイコロジカルスリラーのような映画でスペースをかっこいい映像とかで埋めてしまうと、視聴者は情報や感情を整理し構築する余裕がなくなり、「なんじゃこりゃ?」だったり、「思ったのと違ったー」となってしまうのです。
映画は視聴者が受け身ではなく、積極的に思考していくことで、映画体験というものが生まれるものです。「思ったのと違ったー」と「やばいこの映画」の違いはそれほど大きくありません。
視聴者の期待を裏切りながら、視聴者の感情を塗り替えることができるかどうかの違いだと思います。
そこにこのスペースというものはなくてはならないもの。それをただ編集で間を取るだけでなく、カメラ・演技・音楽が相互に影響しあうことで、映画の世界に引き寄せるスペースを生むのです。そのスペースを埋めるのは視聴者、それを自ら埋めることで、自ら映画の世界に足を踏み入れるきっかけになることは間違いないでしょう。