劇場公開日 2013年12月21日

「平和ボケ日本の戦争ファミリードラマ」永遠の0 yappyさんの映画レビュー(感想・評価)

1.0平和ボケ日本の戦争ファミリードラマ

2013年12月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

単純

寝られる

あまりにアホ過ぎ。
原作も酷いものだったが、映画も幼稚で観ている方が情けなくなるほど。

原作者も監督も、兵士が置かれる立場をまるで理解していない。
自分が生き残りたいから逃げてるなんてのは、卑怯だ云々以前に、生き残りの方法として成り立たない。戦闘機乗りが隊の仲間同士で守り合わなければ即、敵にやられてしまう。味方がやられた後、自分も追撃され袋叩きで攻撃されるだけだ。

戦場の兵士にとって一番大事なのは味方に対する責任だ。戦闘である以上、敵を攻撃しないことは味方の命を軽んじていることと同義。少し想像力を働かせればすぐ分かる事がスコーンと抜け落ちている。

また命令不服従や戦闘からの逃避とでも看做されたら軍法裁判にかけられ銃殺刑だ。
隊の士気も問題だったはずだが、宮部の上官は放置プレーだったのか?

それにこの映画では天皇陛下への忠誠に関わるネタが皆無だが、当時の帝国軍人の倫理は武士道を規範としていて、「菊水」や「湊川」に象徴される「忠君」は決してお題目だけではなく、程度の差はあれ皆が本気で信じていた。是非はともかく、極めて重要な要素なのに無視されているのは不自然だ。

兵士は暴力、戦術、法、組織、思想教育などによって何重にもガチガチに倫理観を固められてしまっていて、個人で生死に関わる態度を自由に決められる余地がほとんどない。だから何千人何万人という集団で殺し合いをさせるなんて芸当ができるわけだ。その仕組みに対する理解が根本的に欠けている。

理解した上でそれに異議を唱えるなら良いが、理解しないまま有り得ない話を描いてしまっている。だから説得力がない。
これがこの映画の根本的な欠陥だ。

戦場の描写も酷い。
航空母艦の乗務員の描き方なんて、溜まり場のヤンキー。
艦橋でなくその溜まり場の会話で状況説明を済ませようとしてしまったために臨場感がゼロ。艦橋内部まで作る予算がなかったのだろうが、それが観客にミエミエなのは痛い。この辺がハリウッド映画との差か。

ドラマとしての組み立ても三流以下。
「お前にも家族がいるだろう」と宮部に怒鳴られて初めて自分に家族がいることに気付くかのような部下…。兵士の多くは二十代の若者で、結婚前だったり新婚さんだったり、子供が産まれたばかりだったり。皆同じように辛い思いをして戦場に来ているのは誰しも分かりきったことなのに、ストーリーの都合上、主人公だけがそれを分かっているように描かれている。

他の場面でも不自然な台詞が多く、主要な登場人物がいずれも内面と呼べるものを感じさせない。辻褄合わせの説明文を読み上げるために順番に画面に登場しているだけの印象だ。

出演したベテランの俳優陣は、こんな高校生が文化祭で上演する芝居のような幼稚な演出を、どう思ったのだろう?口には出さないだろうが、内心ではかなり違和感を感じたのではなかろうか。

CGによる戦闘シーンは、幾つか気になる所はあるが、まずまず。
ひとつだけ指摘させていただくと、
当時の空母は射出機がないため、艦載機発艦の際は揚力をかせぐため風上に向かって艦を全速前進させる。しかし作品中では艦首にほとんど波が立っていなかった。これは少し残念だ。

ちなみに原作小説についてアマゾンで「評価1」のレビューを選んで読んでいただくと分かる通り、この作品の内容は殆どが他の戦記のコピペであり、原作者の百田が書き加えた部分は嘘臭く安直な「感動の物語」テンプレだけといっていい。現代編は不要だと感じた人も多いだろうが、そうした事情で削除できないわけだ。

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yappy