「血か過ごした時間か、それとも子供の意思か…見た人それぞれ考えさせられる」そして父になる 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
血か過ごした時間か、それとも子供の意思か…見た人それぞれ考えさせられる
見たかった映画である。
カンヌで賞を穫ったからではなく、是枝監督の次回作が決まった時から心待ちにしていた。
子供の取り違え。
お昼のドロドロ愛憎劇で展開しそうな題材を、ここまでの作品に昇華させたのは、何より是枝演出に尽きる。
淡々と描きながらも、役者たちの感情を丁寧にすくい上げ、見る者の心を揺さぶる。
子供にもドライに接し、冷淡で嫌みすら感じる勝ち組エリート。その一方で苦悩し、不器用な父の愛を感じさせる。スーパー人気者で近寄りがたいオーラを出しつつも、良い人柄が伝わってくる福山雅治の雰囲気が巧く活かされ、この役に合っていたと思う。
リリー・フランキーは全く対称的な父親像を演じ、見る者に理想的な父親像とは?…と問い掛ける美味しい役所。「凶悪」での演技も評判のようで、年末、多くの賞を手にする事だろう。
真木よう子の肝っ玉母さんもイイが、印象に残ったのは、尾野真千子。良妻賢母故の悲しみと夫への不信感を募らせる抑えた演技は出色だった。
そして今回も是枝演出は、子供たちから自然な姿を引き出している。特に慶多少年の無垢な瞳は忘れられない。
こういう事例は戦後には稀にあったそうだが、現在も全く無いと言い切れないらしい。
その場合、100%交換すると言う。
まだ子供が居ない自分からしてみれば、血か過ごした時間か、どっちが大事かなんて無責任な事は言えない。
実の親子の繋がりは深い。しかし、血の繋がりの無い親子の関係だって深い。実の親子以上の時だってある。よく映画でも描かれる。
共に過ごした時間は尊い。とは言え、やはり同じ血を分けた子。その血に熱く強いものを感じてしまう筈。
ならば、子供の意思は? 子供はどちらを望み、子供にとってどちらが幸せなのか。
一番大事なのは子供の意思ではないのか。例えそれが、当事者の親にとって悲しく、いたたまれないものになっても。子供の将来を思うなら。
明確な答えなど無い。見た人それぞれ思いを馳せ、考えさせられる、良き映画だった。
最後に…
本作はハリウッドでのリメイクが決まった。
わざわざリメイクする必要があるのだろうか。
関係者はリメイクに喜んでいるようだが、本当に名誉なのはオリジナルのまま公開される事。
関係者はもっと自分たちの作品に自信を持って欲しい。充分、世界に通用する映画なのだから。