「是枝監督らしい作品」そして父になる 水樹さんの映画レビュー(感想・評価)
是枝監督らしい作品
是枝監督らしく、あまりエンターテイメント部分はなく。
あくまで自然で淡々とした描写をメインに移す作品という印象。
役者さん達の演技や子供の動きや言葉の自然さ。
そういうものは「誰も知らない」と同様で造られた世界の中にある
妙な自然さというものが突如現れると、何かハっとさせられます。
そのハッとさせられた瞬間に、親の目線でも、子供の目線でも、
現実的に彼らの心理を感じとってしまうのでしょうね。
親の辛さも、子供の辛さも、正直にいってしまうと、
この作品というのは「他人が答えを出せない」作品であって、
この家族がどう乗り越えていくかを考える作品なのだと思います。
…っと言っておきながらも、やっぱりあの結論には疑問符がorz
コンセプトとしては主人公の福山がこの事件を通して
父親とは何か「父親の自覚」を認識していく話なのだとは思います。
ですが取り違えの場合病院側の主張では「最終的には100%交換を行う」
という話が出てきていると思うのですが、最終的に彼らが選んだ道は
交換を行わないという選択なわけですよね…。
監督の考える「父親の自覚」と「結末」というものに対して、
現実的に苦悩し考え抜いた親たちが出す結論は「交換」なわけです。
もちろん観客は取り違えなんて経験をしたこともないでしょうし、
お子さんのいない観客も沢山いらっしゃると思います。
あの結末というのはようは無責任な観客であれば、
誰でも「これがベストだろう」っと思ってしまう結末ですし、
子供二人の育った環境が違いすぎるのですから、
小学生の時期に親の教育の指針も考え方も違う家に放り込まれて、
子供がその状況に適応できるとも到底思えません…。
誰もが「二つの家族を持って幸せに生きればいいではないか?」
「他人で一体なんの問題があるんだ?」っと思ってしまうわけです。
個人的にも何をそんなに悩む必要があるんだ?っと疑問でした…。
でも現実にその問題にあった当事者達はその問題に苦悩するわけです。
主人公の言うように相手の親にどんどん似ていく息子に対して、
本当に愛情を注ぎ続けれるのかと疑問にも思い、
悩みに悩みぬいて「交換」という道を選んでいますし、
過去の事例から「両者の家族の交流は不幸な結末を生む」っと
病院側も結論付けているはずなのですから、
この結末はある意味では今までの取り違えの行われた家族に対して、
大きな疑問を残す形で終ってしまっている。
彼らが何を考え、何を思い詰めそしてその結論に至ったのか、
本来焦点を当てるべき、その部分がまったくもって不明確なため
視聴者がまったく「共感」できない状況に陥ってしまっている。
そういう意味では主題に対しては本当に残念な出来でしたorz
もうひとつマイナスなのは主人公の人間像。
もう始まった瞬間に「ねぇよ」っと思ってしまうような、
なんだか絵にかいたような超一流人間。
高層マンションに住み、一流企業に務め、高級車を乗り回し、
子供に英才教育を施し、イケメンで仕事一筋。
その反面、人の心を理解できないような言動や、
どこか人間味のない人物像。っというか人格破綻してますよね…。
そしてそれを演じるのが福山雅治が…。
う~ん、なんか福山雅治にしか見えない。
でも兄弟はそんなでもなさそうだし、父親もどこか抜けた感じ。
いくら母親が再婚相手とはいえ、どうして彼のような人間が育ったのか。
そういう意味でいうと主人公の後ろにあったギター。
あの辺りの説明も微妙にほしいところorz
あと気になるのは主人公の例の一言に対する妻の反応。
夫婦の感覚なのでとてもわからない面はありますが、
傍から見ていたら「深読みしすぎじゃないの?」とは思ってしまった。
個人的にも、あの一言は凄く耳に残っていたのですが、
それ以前に病院側から「同じ時期に生まれた男子は3人」
「実際に間違っているかはDNA鑑定を待たないと」という言葉がある。
そう考えると、その状況に対してその一言が出てしまって、
その対象が「子供」であるのか?っと言う点に関しては
正直微妙に疑問が残る…だって主人公の家族はあれですし、
嫁さんの家族もあれなんですし…。
「自分に似てない」という点をどこまで主人公が考えているか、
その辺りってかなり微妙な気がするのですorz
色々と疑問の残る点は多いのですが、
でもそれは視聴者側の疑問であって、
「家族」というのは当事者にしかわからない。
その最強の盾がある時点で、我々は監督の考える
「家族」と「取り違え問題」に対する考察に、
答えを見出していくしかないわけですが(^^;
映画らしいドラマやエンターテイメントを求める方には
正直退屈な作品かもしれないですね(^^;
最後に夏八木勲さんのご冥福を心よりお祈りいたします。