劇場公開日 2013年9月28日

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「小津監督作品に通じるこの家族愛をテーマの秀作の誕生は最高に嬉しい」そして父になる Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5小津監督作品に通じるこの家族愛をテーマの秀作の誕生は最高に嬉しい

2013年9月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

知的

京都を初めとして大きな、被害の爪痕を残して台風が去った今、いよいよ秋も本番となり、じっくりと読者や、芸術に親しむには最高の季節が到来した。
そして、この季節に落ち着いて映画を観るのには最高の、ふさわしい映画「そして、父になる」に出会えた事を嬉しく思っている。勿論、是枝監督らしく真面目で、地味な作品である事は言うまでもない作品だ。しかし、彼ならではの観終わった後に、観客それぞれが作品のテーマについて深く考え、自分と向かい合い、自己の人生についても改めて深く考える機会を提供してくれる秀作だ。

是枝監督と言えば、元々はTVから出発し、主にドキュメンタリー作品を撮り、95年に「幻の光」で本編監督デビューを果たした監督だ。
だからか、私はいつも彼の作品を観ていて感じるのは、重く真面目なテーマの作品でありながらも、べたりと観客の感情にまとわり着き、涙を絞り出そうとする嫌らしさを感じさせない画作りがなされ、どこか突き放して、最終的な判断は、観客自身で結論を出せと言うような、余白を残して、監督自身の考えのみを全面からを押し付けて来ないスタンスが好きだ。

この映画も病院で出産時に起こり得る赤ちゃんの取り違えと言う事故を通して、その後この2つの家族が遭遇する、様々な日常のエピソードや、問題解決へ関わる対策を模索する中で生れる、各自おのおのが様々に感じる、家族一人一人への想いと愛を深く見つめてゆく、家族に対する本質的な思いを改めて、真正面から描き出した秀作だ。
小津監督作品に始まり、大船調と言われた家族愛や、人情の機微を描く作品の生産をする事こそ、邦画界全体の一つの大きなテーマであり、特長であり特質である。

これから、この作品をご覧になられる方々の為に、私も個人的な意見を並べたてる事を今回は敢えて、避ける事にする。しかし是枝監督のこの「そして、父になる」を観て運命共同体である家族の一人一人の気持ちの相違は、何処から生れ、その相違はどう広がり、そこから一人一人が、どう人生と向き合い直すのか?と言う、生きる意味の本質に迫るこの作品は地味で、スケールも小さいけれど、そこで描かれるテーマこそは、人間の最小単位で有る、核とも言える家族を軸に、人生の本質をテーマにとして描いている。
本作は、天を見上げ、宇宙に想いを馳せるのとは真逆に、自己の内側に深く目を向ける事で、小宇宙を見詰め、物事の本質を見極める、人の核心に迫る本作こそ、宇宙と同様に広大なスケールだ。
「真夏の方程式」で子供嫌いのキャラを立派に演じた福山雅治が、今回もまた、クールでそして神経過敏な父親を演じていた。その彼に対比して、もう一つの家族は余りにもフランクな父をリリーフランキーが演じる、この2つの真逆な家族の姿を観る事で、観客自身は自分の父親親の役割と家族の立ち位置を確認出来る素晴らしい作品なのであった。

ryuu topiann