そして父になる : 映画評論・批評
2013年9月25日更新
2013年9月28日より新宿ピカデリーほかにてロードショー
登場人物たちの感情の変遷がひたひたと伝わってくる誠実な映画
誠実な映画だ。まず、タイトルに寸分の偽りもない。まさにその通りの映画。だからといって予定調和的なところは微塵もなく、終始サスペンスフルで心を揺り動かされ続けるだろう。登場人物がここでどう感じるのか、どういう選択をするのか、それは正しいのか、自分だったらどうか。固唾をのんで見守る時間は濃密で、豊かな体験となる。
「やっぱり、そういうことか」。ひとり息子が生まれた病院で取り違えられていたと知ったときの、良多の反応だ。福山雅治演じる良多は、仕事命のエリートサラリーマン。自分の思うような強い子に育っていない息子に不満を感じていたようだが、この反応は最悪。クールで鼻持ちならない上から目線の主人公はしかし、ただのいけ好かない男ではないことがわかってくる。彼なりに悩み、葛藤し、血と時間と、愛について考える。そして父になる。
良多夫妻と対照的な、商店を営む相手方の夫婦。いきなり衝撃の事実を突きつけられた、ふたりの子供たち。6人それぞれが、驚くべきリアリティを醸し出す。セリフとセリフの間のふとしたしぐさや息づかいに感情がほとばしったり、視線が雄弁に語りだしたり。それぞれの感情の変遷がひたひたと伝わってくる。よくわかる。それだけに、クライマックスで涙をこらえるのはまず無理! まったく、この監督の真実(と私たちが心から信じられるもの)を導き出す手腕には舌を巻くばかり。それもこれも、映画に対する監督自身の誠実さがあってこそのものなのだ。
(若林ゆり)