ヘルタースケルター : 映画評論・批評
2012年7月10日更新
2012年7月14日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー
2012年というフリークな現実を生きる女性の叫びと涙
「どうして神様はまず私達に若さと美しさを最初に与え、そして奪うのでしょう」
シェークスピアか何かの引用か? と思いきや、これは岡崎京子の漫画原作中でサブキャラのひとりが吐くセリフである。そして、その言葉は、映画中にも印象的に使われ、蜷川実花監督の絢爛と全くその細部に嘘がないポップの筆致で増幅され、沢尻エリカという女優の力で大きなうねりとなって、もう、そのことは了解済みで現在を生きている女たちをも突き飛ばす。
バブルの余韻がまだあった頃の原作の映画化だが、時代遅れどころか、3・11をへて、2012年の今にこそ公開されるべき多くの要素を含んでいることに驚いた。若さと美の状態を引き延ばすりりこの欲望は、大金を積まなくても、進化した化粧品で一般化されているし、当時は芸能人やプロスペックだったつけまつげは、今や、女子高校生アイテム。美容整形のタブー感も加速度的に払拭されて、美魔女が賞賛を浴びるフリークな時代が今なのだ。おまけにそれを手に入れても、全く満足できないし幸せでない、というりりこの”境地”までをも、今の女性たちは体感してしまっている。ラストのりりこの顛末記を、私は当時、ガルシア・マルケスの小説的なファンタジーと捉えたのだが、今や、ソレを現実に生きている女たちは少なくない。
沢尻エリカのキャスティングは、彼女のスキャンダラスな生き様と若さと美のエクストリームなあり方の一致から、これはもう、言うこと無し(復帰作としても、原作が漫画文化の中の伝説的名作なので、話題性は充分)。果たして、スクリーンでの沢尻の演技と存在は、もともと「パッチギ!」ですでに注目されていた才能が、見事に開花したかのようなとんでもなく素晴らしい出来であり、劇中の大写しのりりこの叫びと涙は、まんま観客の女性たちの心の闇が現出したよう。最近の映画で、そこまでの主演女優の「メディア性」を出し得た作品はなかったのではないか。奴隷のように扱われるが、M女の暗い支配性をかいま見させる付き人役の寺島しのぶ、いつもの桃井節が役柄に今回はバッチリ当たった桃井かおりなど、女優脇役の名演も、やはり、女の当事者としての魂がこもってしまったが故の結果でしょうね。
(湯山玲子)