「過去に学ぼう。」アーティスト ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
過去に学ぼう。
内容がどうの、ということよりも、
過去のサイレント映画に敬意を払った作品だと感じた。
物語は至ってシンプル、おそらくアカデミー賞をとったから、
観に行ってみました…!的な鑑賞者も多いのだろうと
思うけれど、うわぁ~♪と思った人がどれだけいるだろう。
昔のモノクロ(カラーで撮っているからグレー調)の色彩、
サイレントで所々に字幕で入る台詞、スタンダードな名曲、
どこをとっても過不足ない仕上がりだけど、サイレント映画
という意味では、諸手を挙げて大喝采というほどでもない^^;
(このストーリーは過去作で何度も描かれているので)
先に書いたヤマトの感想と同じで、
鑑賞者がうわぁ~♪と思えるのは、どのシーンもあの名作の、
あの役者の、あの動き、あの台詞、あの表情が見られるからだ。
監督のアザナヴィシウスは、かなり研究して作ったのだと思う。
映画好きには懐かしくて堪らない部分が沢山盛り込まれている。
主役の二人も魅力的。特に男性のデュジャルダンは表情が巧い。
台詞のない部分、身体で演じなければならない部分を見事に
表現している。なのでオスカー受賞も…まぁアリかな^^;
惜しむらくはダンス、それは当たり前なんだけど(爆)この二人
やたらタップを踏むシーンが多くて、ラストもそれで〆となる。
楽しく演じる二人の表情は見事だけど、ステップはイマイチ^^;
かのアステアが観たら何ていうだろう、何回撮り直すんだろう、
などという心配までしてしまった。ハリウッド黄金期を支えた
スター達には、もちろんアイドル性やカッコ良さも必須だったが、
何より演技に完璧さが求められた。チャップリンにしても同じ
シーンを一体何回撮らせるんだ?というくらい撮り直しをして
ほんのワンカット、黒澤明もそうだけど、こだわりがハンパじゃ
ないところが観る者を圧倒したのだろうと思う。だから今でも
新鮮な笑いが生まれ、驚きが与えられる。先の話に戻ると
アステアとロジャースのステップにはどこに違いがある?くらい
(タップの名競演ではアステアとパウエルの方が有名かな^^;)
完璧で寸分の乱れも許さなかったアステアのこだわりが常に
彼のダンスの中にあった。今作はいい作品だが、こだわりのない
サラリとした姿勢が現代的。台詞の入れ方もおそらくそうで^^;
ココ!と思うところで字幕が来ない。俳優の動と台詞文字の静、
このリズム感も過去の名作は完璧、いちいち比べて申し訳ないが
そういう観方をしてしまう世代もきっといるだろうと思ったのだ。
そして最大の疑問は、ジョージがなぜトーキーに挑戦しなかった
のだろうという謎が、ラストで更に大きく膨らんでしまうところ。
(フランス人だから、はおいといて^^;)
この人、声がすごくイイのだ。あの声なら売れる。というか普通、
一度くらいは挑戦した(させた)はずだと思うんだけどなぁ…。
もちろん時代の波に乗れず、落魄れていったサイレント役者は
多かったのだが、そんな彼らの最大の難点は「声」!シブい顔の
役者が女より高い声だったり、かなり音痴だったり、そんな部分で
ファンがアラ~^^;と思って離れていった、というケースが多い。
(だからのちに吹き替え専門俳優なんていうのが増えた)
日本でいえば、田村四兄弟のお父様で当時大人気の阪東妻三郎。
私の時代じゃないけど^^;彼の高音声はかなりのギャップを生み、
サイレント時代の熱狂ファンを呆然とさせた、という。
声って大事。。サイレント→トーキーの波に巧く乗れた俳優達は
運が良かった、まぁそれも才能のひとつなのだから仕方ないのか…
作品賞にダメ出しなどして、大変申し訳ないのだが、
今作が善意に満ちた良い作品なのは大前提。尺もちょうどいい。
自分をショウビズ界に導いてくれた大先輩に恋をし、どんなに
年数を経てもその大先輩への敬意を忘れない、困っているのなら
手助けをしたい、と奔走するぺピーの好意は、恩師を大切にする
懐の深さと相まって日本人を感動させるに違いない…私も泣けた。
スターの地位を保つには、その才能と、声と(爆)、技術力も大切だ。
自分をアーティストだ(ジョージ)と自負するなら、常に挑戦を怠らず、
前へ歩いていくべきだ。若い才能はステキな知恵を授けてくれる。
野望と裏切りに満ちたショウビズ界で(爆)
こんなに清々しい作品を今作り出したことにはなにか意味がある。
現在を嘆かず、過去に学ぼう、ってことなのかな。
それにしてもタレント犬・アギーの名演は可愛らしかった^^;
(ぺピーを演じたB・Bって監督の奥さん?本作でも内助の功なのね)