劇場公開日 2012年4月7日

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アーティスト : インタビュー

2012年4月3日更新
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M・アザナビシウス監督、サイレント映画でつかんだ栄冠

VFXや3Dなど技術革新が日進月歩で進む現代の映画界において、白黒サイレントのフランス映画が作品賞含む最多5部門受賞という驚きの結果をもたらした今年のアカデミー賞。古き良き時代のハリウッド、過去の名作へのオマージュがふんだんにちりばめられたこのシンプルなラブストーリーから、より豊かな映画の楽しみ方を発見することができるだろう。本作で21世紀を代表するサイレント映画監督となったミシェル・アザナビシウス監督が来日し、作品について語った。(取材・文・写真/編集部)

1927年のハリウッドが舞台。大スターのジョージが新人女優のペピーを見初めてスターへと導く。時代はサイレントからトーキーに移行し、ジョージは落ちぶれていくが、彼に思いを寄せるぺピーがジョージの復活のために陰ながら奔走する姿を描く。物語は音楽と共に時折挿入される字幕のみで進み、言葉を発さない登場人物たちのしぐさ一つ一つから目を離さずにはいられない。

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サイレントという手法を選んだ理由を「非常にシンプルではありますが、美しいストーリーを語るのに適した技法ではないかという直感がありました。おそらく今までにない斬新な手法で語れるのではないか、何か世界初のような試みができる気がしたのです」と明かし、こう断言する。「サイレント映画は、トーキー映画から単にせりふを抜き取った、そういう欠如の映画ではないと私は思うのです。サイレントならではの別の語り口があると信じていたのです」

せりふがないからこそ、観客はイマジネーションを駆使して作品を楽しむことができるのがサイレント映画の強みでもある。「サイレントでできることの限界を意識しながら、どのようにサイレント映画が観客に作用しているか考えながら」過去のサイレント映画を多数鑑賞し、参考にした。「音がないことで、観客は現実から少し遠いものだと感じるのですが、だからこそ観客は子どもの頃に戻ったように純真な形で、映像を受け取ろうとするのです。せりふがないことによって、ストーリーに関しても可能性が広がる利点だと考えていました。たとえば小津安二郎ロベール・ブレッソンジャック・タチらもできるだけ騒々しい音を排除したシンプルな形にして、自分自身の声を見つけていた監督だったと思います」

劇中では、過去の名作へのオマージュを感じさせるシーンがいたるところで発見できる。「本当に完璧な監督」と敬愛するビリー・ワイルダーの作品から本作製作のインスピレーションを与えられたという。「ほかの監督の作品を見て、別の時代の作品にこたえるという作業を今回私はしたわけですが、それは音楽や絵画の世界では割と普通になされていることにもかかわらず、映画界ではなかなかありません。ひとつ例を挙げるとしたらクエンティン・タランティーノ 監督が、もっとポップなやり方で過去の作品にオマージュを捧げています。そういうアプローチは懐古趣味的なものではなくて、過去を尊重するということです。そのことによって、より落ち着いて、聡明な形で未来に進んでいけるのではと思うのです」

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オスカーハンターとして知られるハリウッドの名プロデューサー、ハーベイ・ワインスタインが、本作の魅力に早々に目をつけて北米での配給権を獲得。ジャン・デュジャルダンが最優秀男優賞を受賞したカンヌ映画祭後から、アカデミー賞へ向けての本格的なキャンペーンが始まった。ワインスタインとの仕事はどのようなものだったのだろうか。

「世の中には作品の力があっても、その作品を気に入るような観客層に届かない状況が存在することがあります。そこをワインスタインがうまく見定めて、どのような対象に向けてキャンペーンを張るべきか、そういう仕事をうまくやってくれたと思います。もし、彼がいなかったら我々はおそらくオスカーを獲っていなかったでしょう」と断言する。そして、「彼のすごいところは、人並み外れた状況分析能力です。ですから、映画に限らず冷蔵庫やアイスクリームでも、彼の手にかかれば世界のベストセラーになってしまうのではないでしょうか」と笑った。

サイレント映画がオスカーを獲得するのは、1927年の第1回アカデミー賞で「つばさ」が受賞して以来、83年ぶりのこととなった。長い月日を経て、サイレント映画史に新たな功績を残したといえるだろう。

「サイレント映画が古いと思われているのは、1920年代で製作が終わってしまったからであって、サイレント映画そのもののフォーマットは時を超えて、年齢がないと思っています。ですので、もっとモダンなサイレント映画を作れると思いますし、この映画がその例だと思っています」

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