「揺れ動く天秤の針」フライト マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
揺れ動く天秤の針
オープニングから30分は、乗客・乗員102名を乗せた旅客機が高度3万フィートで制御不能になり不時着するまでの飛行に費やされる。予告篇にもあるように、かなりアクロバティックな操縦で96名が生還を果たす。この30分は、パニック映画1本分に値するほどのエキサイティングな演出だ。
ウィトカー機長がいかに冷静沈着な判断能力と操縦技量をもつパイロットであるかが描かれる。と同時に、ウィトカーとアルコールの関係、そして人間関係が組み込まれ、機長の過失致死罪を問う本題への伏線が多く含まれる。
ほかの誰もが真似のできない操縦で犠牲者を最小限にとどめ、どんなに多くの生命を救ったとしても、もしアルコールが入った体で操縦したとすれば厳罰に処せられる。機体不良の不運と、たとえアルコールが入っていようと奇跡的な不時着を達成した功績、この話にはそのどちらに重きを置くかという天秤は存在しない。いかに善行を施そうと、それ以前にやってはならない社会のルールがあり、結果オーライであってはならないと訴える。
社会を誤魔化し、人を誤魔化し、自分をも誤魔化し続け、ほころびが出るたびにまた嘘で固めていく人生。それが是か非かはけっきょく本人の問題なのだが、その判断を決するための天秤は存在する。その天秤は本人の中にある。たとえ社会から葬られようと何ものにも縛られずに開放された心を取り戻す勇気さえあれば、天秤の針をまっすぐ見ることができる。
揺れ動く針がぴたりと止まるまでのウィトカーを表現したデンゼル・ワシントンはさすがに巧い。
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