「時代を超えてアメリカの空はジョン・グッドマンが握っている」フライト 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
時代を超えてアメリカの空はジョン・グッドマンが握っている
仕事中の飲酒は百歩譲って目を瞑っても、どっぷりコカイン中毒の時点で充分アウトやと一蹴したらそれまでだが、事故の責任を擦り付けあう各業界の組合幹部の思惑の汚さや人間関係のもつれが、渦中でもがく主人公の闇を更に深刻化させていく。
全員死亡という最悪の事態を回避できたのは全て神のお蔭という世論に頷きながらも、表情に「オレのおかげじゃないか」と云うドコか他人事の自尊心が露骨に表れ、終身刑の危機への焦りが追い討ちを掛ける。
反省どころか酒とドラッグに縋り、現実逃避を続ける彼の独り相撲は、稀代の名パイロットから酒浸りのトラブルメイカーへの凋落を加速化し、独り善がりが好きな人間の業を思い知らされ、とても見応えがあった。
『アンストッパブル』『デンジャラス・ラン』『マイ・ボディガード』etc.一作毎に善悪のキャラクターを巧みに切り替えて演じたデンゼル・ワシントンが、今作では一つの世界観に悪魔と英雄を共存させ、ろ過された人間像を完成。
犠牲となった愛人CAの葬儀に参列し、沈痛な顔立ちでお悔やみの弁を述べるや否や、その場で仲間に審議会で自分に有利な発言をするよう懇願するしたたかな足掻きっぷりは、デンゼル・ワシントンだからこそアプローチできる唯一無二の至芸と云えよう。
彼の振り幅の広さに改めて唸ると同時に、興味深かったのは、脇役のジョン・グッドマンの存在感である。
相変わらず主観的な映画鑑賞で恐縮だが、先日の『アルゴ』同様に、危うい主人公を悪夢と現実の分岐点で繋ぎ止めるキーパーソンとして、外見以上に強烈な個性を放っている。
『アルゴ』の主題が、《嘘と芸は身を助ける》ならば、
今作は専ら、
《嘘と酒は身を滅ぼす》
ってなものだ。
つまり、《自作自演》と《自業自得》の世界。
そんな対極的な教訓が時代を超え、アメリカの空を横切り、アカデミー賞を騒がしていたのは、何だか皮肉めいた運命やなと痛感せざるを得ない。
では最後に短歌を一首
『奇跡より 懺悔に沈む 墜ちてなを 悪夢は酔えぬ 翼なき空』by全竜