11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち : 映画評論・批評

2012年6月5日更新

2012年6月2日よりテアトル新宿ほかにてロードショー

三島の美学ではなく、純粋な学生たちの<義>に殉じた精神を描いた実録ドラマ

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かつて若松孝二は<性と暴力>を武器に数多のスキャンダラスな問題作を放ったが、「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」以後、明らかに大きく変貌を遂げた。現代史の闇を抉るような主題を好んで取りあげ、とくに若い世代に向けて、まるで楔(くさび)を打ち込むように苛烈なメッセージで挑発し、鼓舞する映画作りを実践しているからだ。

三島由紀夫の衝撃的な自決を描いた本作でも、三島の美学的世界には一顧だにせず、彼が死への傾斜を深めていった1960年代という<時代>を、まるで実録もののように、新宿騒乱、金嬉老事件、よど号ハイジャック事件など当時のニュース映像を援用しながら、浮き彫りにしようとする。

冒頭に現れる浅沼稲次郎を刺殺し、獄中で縊死した山口二矢が影のキーパーソンで、このあまりに滅私な祖国愛に憑かれた若きテロリストの痛々しい魂が全篇を静かに覆っている。三島を自決に導いたかにみえる純粋な民族派の学生たちとの濃密な師弟関係も、彼らの度外れた愛国のロマンティシズム、義侠心の美しさが謳い上げられ、同性愛の匂いが画面から周到に排除されているのは注目すべきだろう。

既存のイデオロギーに生理的な反発を抱く若松孝二にとっては、恐らく、あさま山荘に立てこもった連合赤軍の戦士も、三島と行動を共にした楯の会の若者たちも等価な存在なのだ。むしろ、彼らの些末なエゴを超えて、<義>に殉じた精神こそ、若松孝二が、自分と対極にある三島の謎めいた生涯のなかで、唯一、深く共鳴したものではないか。

特に、三島を演じた井浦新、森田必勝を演じた満島真之介の軽佻さが微塵もないひたむきな表情が印象に残った。

高崎俊夫

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