劇場公開日 2012年9月1日

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「肩の凝らず、爆笑しながらホロリさせてくれるいい作品でした。しかも介護については奥の深いメッセージが込められていたのです。」最強のふたり 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0肩の凝らず、爆笑しながらホロリさせてくれるいい作品でした。しかも介護については奥の深いメッセージが込められていたのです。

2012年8月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 本日は、東京独女サイトの24時間以内にプログにレビューアップする試写会に参加しまして、せっせとカキコしています。多少独女さんのクライアントを意識しましてヨイショ気味のコメントになることをお許しください<m(__)m>

 フランスで大ヒットした背景には、社会福祉に関心の高いお国柄にあって、本当に障害者の立場に立った介護とは、至れり尽くせりがベストではないということに一石を投じた作品だったからと思います。
 健常者の優しさは、時として障害者にとって、屈辱にも似た鬱陶しさを感じるさせてしまうようです。本作を見れば、首から下に障害を負ってしまった大富豪フィリップが、介護のプロのアシストには、次第に顔を歪め、近づくことも忌み嫌うようになるのに、スラム街出身で無職の黒人青年ドリスを雇ったときは、その開けっぴろげで、友達感覚で接してくる態度には、無礼だと憤慨しないばかりか、ニコニコととても愉快そうな微笑みで応じていたのですね。

 介護の訓練を受けてしまい、プロとして意識を伊達に持ってしまうと、ついつい障害者を障害者として対応してしまいがちになるわけです。健常な意識を持った障害者にしてみれば、そんな対応が嫌でたまらないわけですね。
 本作が気がつかせてくれることは、障害者やドリスのような不幸な境遇を囲っている人と接する時は、安易な同情心を見せないこと。自然体で、他の友人と分け隔てなく接してあげることが真の優しさなんだということを強く感じました。

 冒頭に登場するのは、ドリスとフィリップがスポーツカーで爆走するシーン。警察に捕まっても、フィリップの病気をネタに難なく逮捕を免れて、パトカーに病院まで先導させてしまうほどのはったりをふたりは楽しんでいたのです。ドリスはスラム街にいただけにアンモラルを楽しむことには長けているけど、フィリップにとっても、ちょうどいい息抜きだったのです。
 ドリスを雇う前は、恐らく介護経験のゆかたなプロに、徹底的に管理された息の詰まる生活を強いられてきたことでしょう。前任者がことごとく短期で首になったり、退職していくのも、フィリップがどこかで耐えられなくなってキレてしまうことが原因だったと思われます。
 最初は、ゆく当てもなさそうなドリスを、慈悲の気持ちから助けてあげたつもりだったフィリップであったのでしょうけれど、実は救われたのは、フィリップの方だったのかも知れません。
 ドリスが来てからというものの、冒頭のスピード違反は朝飯前。ふたりの間でマリファナを吸ったり、シモネタで盛り上がったり、大富豪としてはあるまじきアンモラルが横行するようになったのです。でもそれは、フィリップにとって病人扱いされる日々から解放され、自由を満喫できたのです。

 妻の重病と自身のパラグライダーの事故によって半身不随に身になった久しかったフィリップ。ドリスがやってくるまでは、自身も障害者として、未来への希望を閉ざしていたのかもしれません。けれども社会の最下層にあっても逞しく生き抜こうとしているドリスと出会って、人生を楽しむことの大切さを思い出したのです。そして、ドリスの粋な計らいで、新たな恋までチャレンジしてしまうのですね。(実話の方は、もっと凄いことに発展していました。)

 前科のあるドリスに、フィリップの友人たちは警告するものの、フィリップの人を見る目は確かでした。破天荒なところもあるけれど、フィリップの娘やその彼氏にきちんとけじめをつけて躾けるなど、折り目正しい青年だったのですね。

 ドリスとフィリップの雇用関係を超えた絆の深さには感動されられたものの、下手にお涙頂戴ではなく、さらっとしたコメディタッチで描いたのは正解でした。要所に爆発するドリスのシモネタ攻撃には、何度も爆笑してしまいました。特にクラッシックの名演奏のドリス流解釈は抱腹絶倒ものです(^^ゞ
 この芸術に対しては、音楽ばかりでなく絵画についてもウィットに富んだエピソードが描かれていて、爆笑してしまいました。
 フィリップが意味不明の抽象画を高価な値段で買い上げるのを見たドリスは、自分も真似して適当な抽象画を描いてしまうのです。それをフィリップは知人に高値で売り飛ばしてしまいまうのですね。素人とプロの書いたものがボーダレスで、違いがよく分からなくなっている現代美術に対して、強烈な皮肉を込めたシーンだったと思います。

 ヒューマンドラマとしては肩の凝らず、爆笑しながらホロリさせてくれるいい作品でした。しかも介護については奥の深いメッセージが込められていたのです。その意味深な部分を、美しいピアノの旋律がドラマアップしてくれました。

 ドリス役のオマール・シーの軽妙で勢いのある演技もいいけれど、フィリップ役のフランソワ・クリュゼの顔の表情だけで、役柄の心理を的確にメリハリをつけて表現する演技も素晴らしかったです。

 ヒューマンドラマはアクションがないから退屈で苦手という人にも、気軽に笑えるお勧めの一本です。

流山の小地蔵