映画レビュー

6時間掛けても解決しない

2025年1月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 只でも長めになりがちなワイズマン作品群の中でも最長の6時間に及ぶ大作です。水筒にしっかりコーヒーを入れて腹を括って臨みました。が、観終えて見ると、「こりゃあ、6時間になってしまうのも仕方ないな」と思え、胃の中には何やら重いものが残りました。

 タイトルの『臨死』とは、死にかけてお花畑を観て蘇ったと言ったいわゆる「臨死体験」ではなく、原題の "Near Death" 通り、病や老いで死にかけている事を意味し、本作はその患者とそれに立ち向かう医師のドキュメンタリーです。ワイズマンでは、様々な立場の人々の群像劇として作品を撮る事が多いのですが、本作は数人の患者さんに絞った取り組みと言うのが特徴的でした。また、本作制作時から36年を経過して、医療技術の状況などは変化しているでしょうが、医師・看護師の悩み、患者家族の苦しみは今も何ら変わっていないでしょう。

 インフォームド・コンセント(検査・診断・処置法・医薬などについて医師が十分に説明して患者の理解と納得の上で治療を進めること)・脳死・尊厳死など、現在にも繋がるテーマに医師らは直面します。それらは時間が経ってもTVドラマの様に解決の糸口など見えず、同じ所をグルグル回るだけなのです。

 例えば、心肺機能がかなり衰えて呼吸器のチューブを口から挿入して辛うじて呼吸を維持している患者さんがいます。しかし、このままでは別の障害を引き起こす可能性があるので、医師はチューブを抜く事を試みようとします。しかし、それには呼吸障害を引き起こす可能性もあるので、状況を説明した上でチューブを抜くかどうかの選択を患者に求めます。更に、チューブを抜いてやはり障害が生じた場合には再びチューブを挿入するか、再度の挿入を止めるか(その先には死があるのだろう)の選択も求めるのです。その決断を患者と家族に求めるのは、「患者の意志を尊重」している事になるのでしょうが、医師自身も語っている様に、「患者が決めたと言っても、患者に決めさせたのは医師だ」という構造は残るのです。病に対しての知見に圧倒的な差がある医師と患者の間には、望まなくとも権力の傾斜が生じています。

 だから、医師や看護師が選択の結果を尋ねる度に患者さんは答えが変わるのです。そりゃそうですよね。でも、仮に決めたとしても、病で苦しむ中で患者さんが本当に理解して決断したのかどうかという疑問は最後まで残ります。でも、医師は、粘り強く何度も説明を繰り返します。それしか仕方ないからです。何も先に進みません。

 唯一の正しい答えなど無い難しい問題です。医療・看護の最前線におられる方々には、「ありがとうございます」の気持ちしかありません。

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