マレフィセント : インタビュー
コミカルな演技で新境地を開拓したアンジェリーナ・ジョリー
ウォルト・ディズニーの名作アニメ「眠れる森の美女」(1959)で、オーロラ姫に呪いをかけた邪悪な妖精マレフィセント。誰もが知る有名なこの物語で、彼女の生い立ちは謎のベールに包まれていた。そこに着目したのが、7月5日から公開される実写版「マレフィセント」だ。優しく純粋な少女が、裏切りによる憎しみに支配された果てに、愛を取り戻していく独創的なストーリーは、ディズニー・ファンのマレフィセントに対するイメージを大きく変え、共感を誘う。「自分の子どもたちを楽しませようと想像ながら演じた」という、主演アンジェリーナ・ジョリーに話を聞いた。(取材・文/本間綾香)
ジョリーはこれまで、数々の映画で自立した、意志の強い、闘う女性を演じてきた。今回のマレフィセントも、怒りを抱え復しゅう心を燃やす強いヒロインであり、まさにハマり役と言えるのだが、新鮮なのはジョリーのコミカルな表情。今までスクリーンの中のジョリーに驚嘆したり、見惚れることはあったが、笑ってしまったのは初めてかもしれない。
「マレフィセントにユーモアを感じてくれたのなら、とてもうれしいわ。演技をする上で、コミカルな自分というものにあまり自信がなくて、彼女の面白さがうまく観客に伝わっているか不安だったから。でも、自宅では子どもたちの前でいつも変な顔をしたり、変な声を出したりして、おどけて見せることに慣れているの。だから、自分のそういった面を意識しながら演じたのよ。自分を解放して、軽快な気分を表現するのは、とても気持ちがよかったわ」
幼い頃から、マレフィセントが大好きだったというジョリー。この映画の企画が持ち上がっていると耳にして、絶対にこの役を演じたいと願っていたそうだ。大人になり、母親になり、改めてマレフィセントというキャラクターを掘り下げると、人間の複雑さ、多面性に気づかされるという。
「赤ん坊に呪いをかけるなんてところは、昔から決して好きにはなれなかったわ。ただ、マレフィセントのパワー、優雅な雰囲気に魅了されていたの。とにかく、彼女は生き生きして見えた。大人になって彼女を眺めると、人間とはさまざまな側面、可能性があるものだと感じるわ。私たちはプリンセスであり、魔女であり、楽しい部分も邪悪な部分もある。完全に1つのタイプには分けられないのよ。母親だって攻撃的になったり、防衛本能が強くなったり、面白いところを見せたり、いろんな面があるでしょ。私がこれまで演じてきたキャラクターのなかでも、マレフィセントはそういった要素すべてを兼ね備えている人よ。まあ、彼女は人間ではなく妖精だけど(笑)。そんな女性を演じることができてとても幸せよ」
オーロラ姫を演じたのは、女優として目覚ましい活躍を見せている16歳のエル・ファニング。透明感あふれる笑顔に、艶やかなブロンドヘアをなびかせる彼女は、どこから見てもおとぎ話に登場するオーロラ姫そのものだ。
「本当にエルは完璧よね。オーロラ姫は彼女以外あり得ないわ。エルは純粋さと人間性を併せ持った、珍しい若手女優。プロ意識が高くて、女優として成熟した高い技術を持っているわ。仕事面では、彼女は実年齢よりもずっと大人。それでいて、年相応の感性、精神をキープしているの。これはこの業界ではとても難しいことだと思うわ。私が16歳のときと比べて? 私は決してあんなに可愛らしい女の子じゃなかった(笑)。あんなに純粋じゃなかったし、特に15、16歳の頃なんて彼女よりずっとずっとダークだったわ(笑)」
映画では、オーロラ姫の幼少期をジョリーの実娘ヴィヴィアンが演じている。また、養子のザハラとパックスもカメオ出演しており、子どもたちにとっても「マレフィセント」は大のお気に入り映画になったそうだ。そして、もう1つ子どもたちの大好きな映画が、ジョリーとブラッド・ピットが出会うきっかけとなった初共演作「Mr.&Mrs.スミス」。
「子どもたちも大きくなってきたから、ようやく見ることを許可したの。すごく衝撃的な体験だったみたいよ(笑)。何しろ自分の父親と母親が、お互いを殺そうとしているんだから。そんなのめったに見られないでしょう? 結末はハッピーエンドだけれど、両親がニセの拳銃を持ってリビングで格闘しているなんて、子どもたちには想像もつかないわよね」
ジョリーは、2011年に「最愛の大地」で監督デビューを果たした。再びメガホンをとった「アンブロークン(原題)」は、今年のクリスマスに全米公開を控えている。カメラの後ろ側に回ることで、「自分がどれほど女優という仕事が好きかわかったと同時に、他の役者たちの演技を引き出すことに、とても魅力を感じた」と語るジョリー。「女優として参加しているときは、自分の演技だけに集中しているけれど、監督は役者たちの持つ可能性を引き出し、編集室で彼らの努力を守ることができる。女優としての自分がいつも望んでいたことが、監督だと実現できるのよ」
母・女優・監督・プロデューサー・国連親善大使と、いくつもの顔を持つジョリーは、マレフィセントと同様に1つのカテゴリーには括れない女性だ。そして、どの立場においても世界中の人々に大きな影響を与えている。マレフィセントのように魔法の力を使って、今あるモノの形、姿を変えることができたら、どう使いたいか尋ねると、ジョリーらしい答えが返ってきた。
「今回の映画には、人間はお互いを思いやるため、忍耐が必要だというメッセージが込められているの。現実の世界には、あまりにも戦争や暴力があふれている。難民の数は第2次世界大戦のときより増えていて、5100万人もいるのよ。もし私たちが他者への態度、他者に対する見方を変えることができたら、この状況は好転するし、変えなければならないと思うわ」