劇場公開日 2012年11月23日

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ドリームハウス : 映画評論・批評

2012年11月13日更新

2012年11月23日より池袋シネマサンシャイン、TOHOシネマズほかにてロードショー

“家族”をめぐるシェリダン・マジックはサイコ・スリラーでも健在

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ジム・シェリダン監督といえば、「マイ・レフト・フット」や「父の祈りを」をはじめ、常に苦境を乗り越えようとする家族の奮闘を描いてきた名匠である。そしてこの系譜を受け継ぐかのように、本作にも家族を象徴する“ハウス”の文字が躍る。ここだけ見ればまさしく彼の得意分野。だがこの素材を用いて名匠は自身初となる本格サイコ・スリラーに挑んでみせるのだから驚きだ。

物語はダニエル・クレイグの虚ろな表情で幕を開ける。主人公ウィルは名編集者として鳴らした大手出版社を辞め、妻や娘たちと夢にまで見た新居生活をスタート。しかしこの新居、実は数年前に凄惨な殺人事件が起きた物件で、犯人と目される男はつい最近、精神病院を出たばかりだという。やがて辺りには不気味な人影が忍び寄り……。

序盤はシェリダンの「イン・アメリカ」を思わせる巧みな筆致が際立つ。とりわけ子役から純度の高い演技を引き出す手腕は相変わらず。それに呼応して両親役のクレイグとレイチェル・ワイズも慈愛に満ちたまなざしで家族の温もりを強固なものとする。まさに手放しで称賛したくなる名匠の語り口だが、この映画には隠し部屋を擁するかのようにもうひとつの側面も。実を言うと本作の裏側ではプロデューサーとシェリダンが激しい衝突を繰り返していた。それゆえ編集権をめぐる両者の攻防はいつしか後半の異様なテンションとなって、観客を得体のしれない衝撃へと突き落しにかかるのだ。果たして最終的な勝者はプロデューサーか、監督かーー。いずれにせよ本作には後日談として主演ふたりの婚約という最高のハッピーエンドが待っていた。 “家族”をめぐるシェリダン・マジックはここでもなお健在なのだった。

牛津厚信

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