劇場公開日 2012年3月31日

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ドライヴ : 映画評論・批評

2012年3月13日更新

2012年3月31日より新宿バルト9ほかにてロードショー

寡黙なヒーローが夜の街を切り裂く。新鋭監督N・W・レフンに注目

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名前はない。家族はいない。過去は語らない。感情はめったに表に出さない。寡黙で謎めいた気配を漂わせている。

1960年代や70年代に映画を見てきた人なら、こういうヒーローにはたっぷり親しんできたはずだ。「荒野の用心棒」や「サムライ」は例に引くまでもない。「ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー」や少しあとの「L.A.大捜査線/狼たちの街」にもそんな匂いがあった。

ドライヴ」の主人公(ライアン・ゴズリング)は、この系譜に属する男だ。正業は車の修理工だが、昼は映画のスタントマン、夜は強盗犯の逃走請負ドライバーという顔も持っている。彼はクールだ。口の端に楊枝をくわえ、黄金のサソリが背中に刺繍されたボマージャケットを着てロサンゼルスの街を車で切り裂く。銃は使わず、「アイ・ドライブ」と言い放つ。

男は、隣の女(キャリー・マリガン)に好意を抱く。女の夫を助けようとして、怪しい事件に巻き込まれる。もともと危うかった人生が、一気に悪夢の彩りを深める。

監督のニコラス・ウィンディング・レフンはデンマークの出身だ。1970年生まれで、アメリカでの生活も長い。「プッシャー」3部作、「ブリーダー」、「ブロンソン」といった日本未公開作品はどれも面白い。速度がある上に、ダークでディープな味わいを備えている。

その流れに乗って作られた「ドライヴ」もやはりエレクトリックだ。映像にキック力があり、夜の街のショットなどはどきりとするようなエッジを感じさせる。しかもこの人は、脚本や演技に対する敬意を忘れていない。悪役のアルバート・ブルックスが魅力的なのはその好例だ。これは相当のタマではないか。クエンティン・タランティーノの弟分といった趣もあるが、イタリア出身のパオロ・ソレンティーノ(彼も70年生まれだ)と並んで、いまもっとも注目すべき監督だと思う。

芝山幹郎

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