ドットハック セカイの向こうに : 特集
ゲーム、アニメーションほか数々のメディアミックスで展開されてきた人気シリーズ「.hack」初の劇場映画化となる「ドットハック セカイの向こうに」(1月21日公開)は、従来のファンだけでなく、映画ファンも視野に入れた“青春映画”として完成した。松山洋監督と伊藤和典(脚本)の対談を中心に、“青春映画編”“CGアニメーション編”の二部構成の特集で、同作の見どころに迫る。
【青春映画編】
松山洋(監督)&伊藤和典(脚本)が明かす
「ドットハック セカイの向こうに」に宿る青春映画のエッセンス
■スペシャル対談:気鋭のクリエイター×「ガメラ」シリーズの名脚本家
情緒あふれる堀割で知られる福岡県・柳川市を舞台に、3人の中学生が淡い恋心にも似たみずみずしい触れ合いを繰り広げながら、現実世界をも巻き込むネット世界の危機に巻き込まれていく「ドットハック セカイの向こうに」。同作が描く“青春”について、監督の松山洋と脚本を務めた伊藤和典が語り合った。
●なぜ中学生が主人公なのか?
松山「『ドットハック』が普通の作品と違うのは、『THE WORLD(ザ・ワールド)』という架空のゲームを遊んでいる子どもたちが主人公ということなんです。ゲーム内に現実世界にも影響をおよぼすバグが起こって、子どもたちがその事件を解決することが、結果、世界を救うことになります。ゲームに夢中になれるのは子どもだけじゃないですか。それに中学2年生、“14歳”という時期は、人生の中で一番多感で成長できる時期。“中二病”という言葉もありますけど、いつも自分の中でのひとつのテーマになっているんです」
伊藤「やっぱりそうなのか(笑)。(これまで書いてきた脚本で)ちょうどその年代だけ書いたことがなかったんです。だから敷居が高くて悩みましたね。ただ、執筆してた時期にちょうどうちの息子が中学生で、彼らを見てると“意外に大したことないな”って。そこを乗り越えてからは、“本当に中学2年生はこう言うんだろうか”と、セリフのリアルさに最後までこだわり抜きましたね」
●柳川を舞台に選んだいきさつとは?
松山「当初は舞台を東京近郊に設定していました。でも、デジタルハザードを描くのに、都心だと当たり前なんですよね。(伊藤に「地元でやれば?」とヒントをもらってから)2人で福岡でロケハンをして、一致して“柳川”に決まりました」
伊藤「認知度が高くて、一目見てどこの場所かがわかる」
松山「近い未来を描いた映画ですが、柳川は向こう10年、20年は変わらないと思うんですよね。変わらないものの良さを背景にしながら、今とは少し違う差異、それが田舎を舞台にしても出るんじゃないかなと」
●完結したひとつの作品。原作を知らない映画ファンでも楽しめる
松山「これまでの10年間の展開では、ゲーム世界の描写を9割でやってきたんですが、映画の場合は日常から物語に入っていかないと感情移入ができないですよね。そこで、ゲーム世界の描写を4割にして、日常を描く部分を6割にしました」
伊藤「ゲームだと登場人物全員がゲームをしている前提ですが、映画はゲームをしていない子がいるところからはじまります」
松山「10年の歴史がある原作ですから、映画を観る前に準備が必要なんじゃないかと思われるんですが、それは誤解です。単体で完結している作品で、主人公の有城そらも、彼女を演じた桜庭ななみちゃんもゲーム未経験。観ているお客さんがシンクロできる観やすさを、すごく意識しています」
伊藤「ゲームを全然知らないウチの奥さんも、試写で観て『面白かった』と言ってましたから、大丈夫です。そらちゃんが可愛いですよ。女の子からも好かれる女の子になっていると思いますので、ぜひ観てください」
松山「“青春”を感じてちょっと汗をかいちゃうかもしれませんが(笑)、甘酸っぱくて幸せな気持ちになれる作品だと思います」
■「転校生」や「時をかける少女」に通じるどこか懐かしいみずみずしさ
言いたいのに言い出せない──ほのかな恋と友情の行方は?
対談で松山監督も語っていた通り、メインキャラクターの3名(有城そら、田中翔、岡野智彦)は14歳の中学2年生。「ドットハック セカイの向こうに」は、ゲーム世界で起こるデジタルハザードをテーマにしながらも、子どもでも大人でもない、一生のうちで最も多感な年代=思春期の少年少女の人間模様が描かれる。
周りの友人たちが全世界規模のオンラインゲーム「THE WORLD」に夢中になっているなか、ひとりだけゲームに興味を持てないでいる有城そら。どこか取り残されたような気分でいたある日、掘割沿いでゲームに没頭するクラスメイトの田中翔と出会う。その夜、意を決してゲーム世界に飛び込んだそらは、ゲームを通じて幼なじみの岡野智彦や田中たちとの距離感を縮めていき、今まで感じたことのない気持ちを田中に抱いていく……。
初めて経験するほのかな恋心、そして、かけがえのない友情。同作がかもし出すみずみすしさは、誰もが経験した懐かしい気持ちを思い起こさせる。まさに「時をかける少女」や「転校生」など、傑作青春映画に通じるエッセンスなのだ。
■桜庭ななみ、松坂桃李、田中圭
人気の若手俳優たちがキャラクターの声を熱演!
そらたちキャラクターの声を務めたのは、人気・実力ともに注目を集める俳優陣。従来は「アニメーションは非日常的なものなので、キャラクターの声は(プロの声優が)作り込んだ方がなじむんじゃないか」という持論だった松山監督が、「日常のドラマをリアルに描き込みたい」という理由から方向を転換し、映画・ドラマで活躍する俳優の起用となった。
ヒロインのそらを演じるのは、「最後の忠臣蔵」で数々の映画賞を受賞した桜庭ななみ。田中翔役には「アントキノイノチ」「麒麟の翼 劇場版・新参者」で注目の松坂桃李、岡野智彦役には「ランウェイ☆ビート」「アフロ田中」の田中圭が名を連ねる。
「アニメーションの声優では出せないテイスト、等身大の中学生たち雰囲気や息遣いが身近に感じられる仕上がりになった」と監督も絶賛する声の演技にも注目したい。