ワールド・ウォー Z : 映画評論・批評
2013年7月30日更新
2013年8月10日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
稲妻ゾンビがブリッツをかける。ピットとCGが映画を立てる
速い。稲妻ゾンビ、などと呼べば形容矛盾もはなはだしいが、それくらい速い。
それが群れる。蟻のように群れて、なぜか疾駆し、蜂のように襲いかかる。いや、蜂ならスティング(チクリ)だが、こちらはブリッツ(ガバリ)だ。電撃的猛攻を受けた人類はもちろんゾンビに変身し、すごい勢いで増殖する。つまり、最悪の感染症。
というわけで、ブラッド・ピットが敢然と立ち向かう。彼が扮するのは元国連職員のジェリーだ。国際間紛争の解決や危機回避が専門だった彼は、請われて難局に立ち向かう。
ジェリーはスーパーヒーローではない。火器や格闘技の専門家でもない。つまり、イーサン・ハントやジェイソン・ボーンの超人的アクションを期待すると、当てが外れる。
が、彼には観察力と注意力がある。医師は感染源の究明に努め、軍人はゾンビ殲滅に燃えるのだが、ジェリーはゾンビの性癖に着目する。それがなにかは明かさないが、注意深い観客ならジェリーよりも先に気づくのではないか。まあ、いい。ゾンビの脅威をまず強調しないことには、話も盛り上がらないし。
監督のマーク・フォースターは、凝ったCG映像と編集の手際で勝負をかける。私はCG映像に白けやすい観客なのだが、フィラデルフィアやエルサレムのモブ・シーンには感心した。群衆の捌きもさることながら、後者などは実写がゼロだったと聞く。驚きだ。
もうひとつ、ゾンビの血膿や腐肉の描写を極力抑えたのは編集の勝利だった。監督は、粘っこい液体が速度の敵であることを知っている。ブラッド・ピットを血まみれ泥まみれにするのが逆効果であることも見抜いている。計算に応えて、ジェリーはうろたえない。ハンサムな顔とクールな態度を堅持する。不自然に見えないのはスターの強みか。ゾンビ映画が苦手な人でも、楽しめると思う。
(芝山幹郎)