「娘と母親の小さな冒険」メリダとおそろしの森 キューブさんの映画レビュー(感想・評価)
娘と母親の小さな冒険
ピクサー初の女性が主人公、という点をみんながやたらと持ち上げる本作。人物のモデリングも従来とはかなり違い、不安と期待が入り交じる中見に行ってみた。
まずは映像面から。相変わらずCGのできは素晴らしい。特に髪の毛のような細い線を描く技術が向上したように思う。薄暗い森の中に生える草木、メリダの縮れた赤毛、縫い物の糸。3D効果も良いと思う。残念ながらメリダが馬に乗って森を走り抜けるシーンではさほど活かされていない。その代わり、森をさまようシーンでは奥行きが十分に出ていて、「おそろし」さに貢献している。
ストーリー自体はある意味、驚かされるだろう。あらすじにも書いてある通り、「自由になりたかった王女が魔女の魔法を使ったせいで、王国が崩壊を始める」というどこかで見たようなストーリー。・・・ではないのだ。一応物語の重要な部分なので秘密にしておくが、これはありそうでなかった。一つだけ言えるのは、母親が粗野な娘に頼る羽目になる、ということだ。これがなかなか痛快で、普段から親をやり込めたいと思っている子供であればクスッと笑えるだろう。
しかしその後の展開は普通だ。王国の歴史に深く切り込むわけでもなく、強大な敵に真っ向から挑むわけでもなく、深かった母娘の溝が埋まるのも割とあっさりだ(本当にすぐ仲直りする)。せっかくメリダが弓矢の使い手なのに、それが全然活かされていないのも残念。元々の題名が"The Bear and The Bow"なのだが、"The Bow"がそんなに目立ってないことに気づいて、今の"Brave"に変えたに違いない。
全体的なトーンは嫌いじゃない。どことなくファンタジックな世界観も、あくまで「王女の2日間の冒険」として描くことに徹しているのも評価できる。だがこの映画を作ったのは親会社のディズニーではなくピクサーだ。彼らならもっとやれるはず、という期待感がこの映画の評価を下げている。実際もっとスペクタルのある映画には仕上げられただろう。
私はこの映画を他のピクサーのように何度も繰り返し見ようとは思わない。でももしこのレビューを見ている人が女性で、かつ娘または母親がいるなら一緒に見に行って欲しい。母親と娘の愛情を描いた作品ではここまで優れたものはそう見当たらないから。
ちなみに今回は本編の前に短編が2本上映された。
1本目「ニセものバズがやって来た」はトイ・ストーリーの短編。前の「ハワイアン・バケーション」よりもグッとクオリティーが上がっている。いつもの冒険を短編用に短く仕上げたテイストだ。お気に入りはバズがファーストフードのおまけたちとカウンセリングを受けさせられるシーン。ピクサーらしい大人っぽい皮肉が込められていて、見ていてとても楽しい。
2本目「月と少年」は”月の掃除”をする父親と祖父に連れられて、少年が初めて仕事をする話。こちらはファンタジックで童話的な要素がたっぷりだ。昔絵本で読んだような、素朴だがじんわりくるストーリーが素晴らしい。見た後の後味の良さは格別だ。
短編の方が楽しんでたりして・・・。
(2012年8月16日鑑賞)