聯合艦隊司令長官 山本五十六 太平洋戦争70年目の真実 : インタビュー

2011年12月22日更新
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五十嵐隼士、壁にぶつかって得た役者としての成長

太平洋戦争から70年のときを経た今年、真珠湾攻撃によって戦争の端緒を開いた戦略家として知られる海軍軍人、山本五十六(いそろく)の生涯を描いた映画が公開される。「聯合艦隊司令長官 山本五十六 太平洋戦争70年目の真実」だ。主役・五十六を演じるのは役所広司。脇を固めるのは、柄本明、香川照之、阿部寛らそうそうたる顔ぶれだ。その中に、零戦パイロット役として迎えられたのが若手俳優の五十嵐隼士。「ROOKIES 卒業」や「パラダイス・キス」など青春・恋愛もので個性的なキャラクターを演じ、作品へスパイスを与えるポジションを得意としてきた。そんな五十嵐が今作では、激動の昭和に生きた青年を演じる。新境地への挑戦はどのようなものだったのか、話を聞いた。(取材・文/奥浜有冴、写真/堀弥生)

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同作は五十六の実像に迫るドラマ。視野の広い国際感覚を持ち、日米開戦に反対しつつも自ら戦争を始めなくてはならなくなった苦悩や、早期終戦による講和を目指しながら、志半ばで命を落とす様を描く。五十六が目をかけていた部下のひとりが、五十嵐演じる零戦パイロットの牧野幸一だ。

そんな牧野を演じるに当たって、五十嵐は「撮影が始まったばかりの頃は、自分の中で用意していたものが一気に崩されていった時期」と語る。戦争を舞台にした作品への出演が初めてだったこともあり、原作本はもちろん、資料や映画をいくつも見て当時のことを勉強した。映画のエキストラに見つけた零戦パイロットの姿までも目に焼き付け、万全に備えたつもりだった。

「自分なりに“零戦パイロット像”を作り上げて撮影に臨んだんです。でもそれは裏目に出てしまった。成島出監督から『五十嵐くんの抱くイメージを一切捨て切ってから挑んでほしい』と言われました。正直、悩みましたね。あれこれと考えすぎて、演じるということ自体がわからなくなり、真っ白になったこともあったほどです」。壁にぶつかった悔しい体験を少しも隠そうとせず、むしろ誇らしい思い出のように堂々と語る五十嵐。そして「その頃は案の定、NGをよく出していた」と苦笑いをする。

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しかしそんな窮地から救ってくれたのも成島監督のひと言だった。「『役のバックボーンを考えて演じるといいよ』とアドバイスをいただいたんです」。これが大きな変化をもたらす。牧野の生まれ故郷での生活、母親と交わした会話など、細部まで想像を膨らませる努力をした。そのために、撮影の合間はひとり静かに意識を集中する時間も多かったという。成島監督に求められた、“死と隣り合わせという気持ちを常に持つ”ことを忠実に心がけ、牧野という人間に正面から向き合った。

「『役に入り込むとは、こういうことなのか』と自分の中で大きく何かが変わりました。今までは半分役・半分素の自分という感覚があったんです。例えばものを持つという演技だったら、どこかで冷静に『落としちゃいけない』と思う自分がいて。でもこの頃は自然にセリフや動作が沸きあがってくるようになっていました。演じている最中、自分がどう動いたかまったく覚えていないほど、入り込むことができました」と、熱を込めて語る。頭で考えてもできない、自ら実感することでしか得られない役者としての成長を感じることができた。

そうして進められた撮影の中で、強く心に残るのが零戦に乗った牧野が最期を迎える場面だという。上空で狭い機内の窓から仲間たちが命を落としていく様子を見つめ、やがて自分も死を覚悟する。「この撮影のときは、気持ちの高ぶりが最高潮でした。これまで(牧野が)戦ってきた記憶が一気に込み上げてきて。たったひと言のセリフ、『母さん……』というのも、この言葉が出るまでに牧野がどんな精神状態でいたのかを色々と考えていくと、本当に辛く悲しくて……」。そう語る通り、このシーンは見る者の胸を刺す印象的な場面だ。人生への未練、同志への弔い、家族への愛情など、複雑な感情を見事に表現している。

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全身全霊で挑んだ今作への出演だが、共演者は冒頭に挙げた俳優陣のほかにも、柳葉敏郎、吉田栄作、椎名桔平、坂東三津五郎ら重鎮ぞろい。25歳、俳優デビュー7年目という五十嵐にとって、プレッシャーはなかったのか。「相当ありました。間違えて周りに迷惑をかけちゃいけないと思って、緊張の連続でしたよ。特に事務所の先輩の(吉田)栄作さんの前では心臓がバクバクで(笑)」と25歳らしい本音をこぼす。そして出演自体も最初は意外に感じていたと言い、喜びより驚きが先だったことを明かした。

さまざまな思いを経て完成を迎えた今、五十嵐は作品への思いをこう語る。「この映画は戦争という重い題材を扱い、人が死ぬシーンもあったり、見るのにパワーがいるかもしれない。でも、過去の苦しみを繰り返さないためにも、多くの日本人にぜひ見てほしいと思っています。そして見終わった後、暗くなるのではなく、前向きになってほしい。山本五十六の生きざまには、そうさせる力があると感じています」

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