ミッション:8ミニッツ : 映画評論・批評
2011年10月18日更新
2011年10月28日よりTOHOシネマズ有楽座ほかにてロードショー
ループの果てに訪れる鎮魂と希望の世界
始まりはヒッチコック調だが、このサスペンスは一筋縄ではいかない。「月に囚われた男」のダンカン・ジョーンズ監督は、見事な手さばきで主人公の置かれた状況を明かしながら、死に向かって疾走する列車に観る者を同乗させる。ここには、すでに列車爆破テロが起きてしまったという前提がある。しかし、死者には絶命直前の8分間の記憶が残存しており、その意識から過去を擬似的に再現できるというSF的な可能性が露わになってくる。
ストーリーの主軸は、予告されている第2のテロを未然に防ぐというミッションである。そのために、兵士であるはずの主人公の意識が、死んだ乗客の記憶に基づく世界へと転送される。つまりタイムスリップものではない。他者の身体を借り、限られた時間内に犯人を突き止めるべく、失敗すれば転送は何度も繰り返される。ただ繰り返すのではない。その度ごとに学習し、自分の選択によって周囲の人々の言動も微妙に変化していく。親近感が増す同乗者の運命は毎回悲惨な結末を迎え、自らも肉体的な痛みを伴うことで、主人公の苦悩は深まるのだ。
日本でもループものは珍しくはない。それは終わらない日常を象徴し、無為な時間の引き延ばしともいえるものだった。だが、本作の時間感覚は全く異なる。あの同時多発テロのトラウマが横たわっている。自滅しゆくアメリカが9・11以前に立ち戻ることができるならば……という祈りさえ感じられる。絶望を癒す手段――別の可能性があったかもしれないと考える夢想は、テロ犠牲者と報復戦争で傷ついた兵士に対する鎮魂へと向かう。最後の転送の行きつく先は、現実をも覆す希望の世界だ。
(清水節)