ゴーストライターのレビュー・感想・評価
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土曜ワイド劇場的安定感ある見応えの政治サスペンス
『戦場のピアニスト』『チャイナタウン』『ローズマリーの赤ちゃん』etc.で知られる名匠ロマン・ポランスキーが複雑で魑魅魍魎ひしめく根深い政治の裏側をテンポ良くエンターテイメント大作にまとめ上げている。
アルカイダやネットetc.現代の時事ネタを扱いつつ、敷居は決して高くなく、人間の秘密が暴かれた時の狂気を重厚に炙り出しており、いろんな意味においてクラシックな面白さが散りばめられ、落語で云う古典の貫禄を聴くような雰囲気であった。
設定は現代やのに、妙に古臭いとも云える創り方で新鮮味は劣る。
しかし、その分、安心して観られる世界観でも有る。
松本清張サスペンスを土曜ワイド劇場で観る感覚に近い。
『迷走地図』とか『ゼロの焦点』とか。
また、前任者の原稿の中に陰謀を暴く暗号が潜んであり、解いていくミステリー要素は横溝正史の金田一シリーズを思い出す。
んまぁ、命を狙われてる者が、そないダイイング・メッセージに凝ってる余裕なんて無いやろとツッコンだらそれまでやけどね。
そういう懐古的推理劇の趣が古典的な匂いやと察したのだろう。
故に優れたクオリティの割に平均的な印象だったのかもしれない。
そんな欠点を差し引いても、女性陣の充実度は相変わらず上手い。
真相を知ってそうな秘書や首相夫人etc.怪しく立ち込める色気も醍醐味の一つで、翻弄されていくユアン・マクレガーの戸惑う表情が興味深く、悲劇的かつ衝撃的なクライマックスへと繋がっていく。
サゲにおける後味の悪さこそ、ポランスキー節の持ち味なんやろね。
在任中、人気が高くスマートながらも裏に人知れぬ巨大な闇を抱える首相を先代007のピアース・ブロスナンがミステリアスに演じており、日本やったら、小泉純一郎が在任中のゴタゴタを掘り起こす感じなのかな?と思った。
んまぁ、真相究明したところで「人生いろいろ!疑惑もいろいろです!」って一蹴されてオシマイなんやろうけど…。
所詮、日本の政治なんざぁ、せいぜいワイドショー程度なんやなと実感しながらも最後に短歌を一首
『波に散る 筆を拾いし 幽霊船 嵐に灯す 船出の綴り』
by全竜
彼はゴースト。
贅沢な気分です。 久しぶりにストーリーを純粋に楽しめる映画に出逢えたというか、画がうるさくない静かな世界に没頭できたというか。 躍動しない映像は、抑揚ないままにスクリーンに貼り付き、その中をキャラクターが動く。キャラの一挙一動が彼らの心情となり、個性となり、物語になる。 でも、動かない画の変わりに楽曲はやたらと弾む。飛び跳ねる。だから全神経が画面に向く。心の余所見をさせない。 つまりは没頭している。 画と音楽の上手い役割分担。 ストーリー自体に斬新さや最先端的なモノは無いんですけどね。 何だろう。『味』がありますね。 オーソドックスではないというか。 兎に角、語り口が面白い。 映画自体は謎解き、ミステリー、サスペンスの様相。 でも主人公は警察でも探偵でもない。一介の物書き。ゴーストライター。 会話に切り札忍ばせないし、あっさり疑わしき人物に情報垂れ流すし、隙は多いし、嘘も言えない。 だからこそというか、そこから生まれる生々しい緊張感。ライヴ的なハラハラ感。 そして、オーラスで見事にこなす、納得の伏線回収。 終幕は唸りましたね。 最後の最期まで、堪能しきりの128分間。 個人的には、続編を期待しています。
強迫観念に似た不安。
第60回ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞の作品。
ポランスキー監督は、もう80歳ですか。
クリント・イーストウッド監督といい、素敵ですね。
元英首相の自叙伝の代筆を依頼された”ゴースト”。
その破格の製作費。
前任者がフェリーに残したBMW。
浜にうちあげられる前任者の死体。
後を付けられ奪われる原稿。
アメリカ東海岸の孤島の凍てついた冬景色。
終始降っている雨。
序盤は、洗練された映像と共に謎をまき散らす。
が・・・、中盤から、何でそうなるの?!
そんなことあるんかいな~。
すごく重要なこと言ってたから、あの人が怪しいじゃん!
に、なってしまった。
ちょっと、興醒め。
でも、良かったこともある。
最後までユアン・マクレガー演じるゴーストライターの名前がわからないこと。
国や政治への不信感の表しかた。など。
その中でも、とくにラスト。
そんなことをしたら、どうなるか・・・わかっていそうだけど、やっちゃう違和感はあるものの、見せる映像は素晴らしいと思う。
≪ゴースト≫たる所以か。
配役は、ばっちりだと思った。
演出は最高、脚本が貧弱。
以下twitter(@skydog_gang)への投稿に加筆―― 終始暗澹と垂れこめる曇り空、クラシックな映画を観ているような高密度でリッチな空気、これだけで十分「映画」を観た!という満足感がある。 …が、「部屋を洗いざらい調べるだろ」とか「カーナビのログ消せよ」など、脚本が相当甘い。雰囲気は良質なのに惜しい。
熟練職人による上質のエンターティメントを召し上がれ
冒頭、真っ暗な海からフェリーが港へ近づき、車が1台ずつ船から出てくる。ある車が動かないまま残り、レッカー車で運ばれます。そして次の場面では、死体が砂浜に打ち上げられて波にもまれているのです。コレといった台詞がないこのオープニングだけでドキドキし、何やらざわざわとした気分になって、作品の世界に引き込まれました。 冒頭だけで、これから起こるもの語りを暗示して充分です。海岸線も、港も、ホテルも適度に寂れていて、空からはずっと曇天。暗くうっそうとした夜のとばりには、時折激しく冷たい雨が打ち寄せて、一向に晴れる兆しをみせない天候。ポランスキー監督は、天候や設定までこだわり、サスペンスの舞台に潜んでいる闇を暗示していたのでした。全編が荒涼としているルック(映像の外形・基調)は、この監督ならではのチャレンジーな設定でしょう。 あまり多く手の内を見せない筋のなかにドキッとさせるスリルを織り込むところは、ヒッチコックを連想させる正統派のサスペンスとひとくちにはいえます。ただそこに全く古さや既視感を感じさせません。上質のエンターティメントとしての最大の功績は、語り口の巧みさです。ラングの妻や専属秘書、大学時代の知人、島の住人など周囲の人物像と関係性と関連性が緊張感を失うことなく的確に表現されていきます。さらに絵づくりの上手さが加わり、何よりもラストのアッと驚かせるドンでん返しのなどの仕掛けや謎解き、ウイットに富んだ会話も充分楽しめる贅沢なサスペンスと評価できるでしょう。 ポランスキー監督の熟練の一本。映画通の方なら、ワンシーンごとにうーんと唸って、上手い!と膝射ちしたくなるほど演出に填ることでしょう。久々に映画の醍醐味を堪能できる作品でした。 物語は、名前すら明かされないとあるゴーストライターが、元英国首相のアダム・ラングの自叙伝の執筆を依頼されたことから始まります。「ゴーストライター」とは有名人本人にかわって著作を執筆する作家のこと。どんなベストセラーになろうと、本当の作者は顔を出せない影の存在でなければなりません。だからこの映画の主人公にも名前はつけられませんでした。 ゴーストにとって、前任者がフェリーから転落して死ぬなど最初から気乗りしない仕事でした。しかし破格の報酬を示されて、ラングが滞在するアメリカ東海岸の孤島へ赴き、本人から取材。原稿を書き始めます。 原作者はブレア元首相傍らにいた政治記者でした。脚本は、ポランスキー監督と原作者の共同執筆だけに、随所にブレア元首相のものと思われるエピソードが盛り込まれていました。ピアース・ブロスナンが演じるハンサムだが中身は空っぽな元英国首相は露骨にフレア元英国首相をイメージさせられました。 しかし、ポランスキー監督は、現実の政治の風刺にはさして興味を持っていないように感じられました。それよりも印象に残るのはゴーストが閉じこめられることになる海辺の別荘の風景。そこは外と隔絶された、安全で快適な場所。外では冷たい雨が降り止まないけれど、中は暖かく心地さそうで別世界。しかし外に出られない身にしてみれば、どんなに暖かくともそこは牢獄と代わりありません。密室の中でゴーストは元首相に訊ねます。「国を動かすことの孤独とは? 国中から憎まれるというのは?」 やがて、ラングにイスラム過激派のテロ容疑者への拷問の疑いがかかり、国際政治を揺るがす過去が浮上します。そこでゴーストは、事故死した前任者の遺した原稿の内容と自分がラングから聞いた話の食い違いに疑問を持ちます。ラルゴの語る過去には空白期間があることに気づくのでした。 前半部分はややお膳立ての説明が長くて、退屈気味になっていたのです。しかし、孤島の別荘で一緒に暮らしているうちにラング夫人が、ゴーストに言い寄り、寝てしまうところから、俄然サスペンスらしくなっていきます。 夫人との同居が気まずく思えた、島を出てホテルを目指します。けれどもある偶然からゴーストの前任者が死の直前に会った大学教授を訪ねることに。そのきっかけの作り方が、スパイ映画じみていて面白いのです。さらに教授の自宅を出たところで、止まっている不審な車がクローズアップされます。思った通り、この車はゴーストのあとを付けてきます。ここからゴーストの味わう恐怖心を観客も一体となってドキドキさせられるシーンが満載となっていきます。身の危険を感じたゴーストは、前任者が遺した原稿にメモされた電話番号に連絡してみます。電話に出たのは、なんとラルゴの政敵でした。 政敵の登場で、事件のあらましはゴーストにもはっきり把握できるようになりましした。ラングがフレア元首相そっくりにアメリカベったりで、英国を戦争に巻きこんだ裏にはCIAの謀略があったことを。それはラングが、政治に全く興味を持っていなかった学生時代から始まるという用意周到な計画だったのです。けれどもその首謀者は、ゴーストも思いつかなかった身近なある人物でした。そしてその秘密の全貌は、前任者の遺した原稿の冒頭に暗に記されていたのです。 全ての秘密を知り得たゴーストの末路が、意外でした。こんな簡潔なドンデン返しで終わるところも潔くて上手いなぁと感嘆した次第です。 ところで、巨匠として誰もがその存在をリスペクトしているポランスキー監督。実は彼の作品同様の数奇な運命に翻葬されてきた存在でもあるのです。 1969年には妻シャロン・デートをチャールズ・マンソン率いるカルト集団に惨殺される悲劇の主人公となりました。けれども、1977年には年少者とのセックススキャンダルで逮捕され、保釈中に国外逃亡するという事件を起こしてしまいます。以来2度とアメリカに戻れなくなったポランスキー監督は永遠の流刑をつづけている存在でもあるのです。 そういう過去を知って、本作品を見たなら、元首相なのに国中から憎まれ、母国に戻れなくなったラルゴとオーバーラップしてしまいます。 そして、主人公のゴーストライターもまた、執筆期間中は、誰にも所在を知られることなく、軟禁状態になってしまうことでは同じく孤独です。 この悲劇に横たふ荒涼とした背景には、流刑囚ポランスキーの孤独が二重写しになって見えるのは小地蔵の穿った見方でしょうか。 映像の不安感をさらに加速させる音楽もベストマッチでした。エンドロールの最後まで聞き入って、余韻に浸るほどのテーマ曲でした。 上映館では連日満員御礼で、チケット屋では前売り券がソールドアウト状態ではありますが、1800円払ってでも劇場での鑑賞をお勧めします。
うす暗い侘しい風景と不安げな音楽が醸し出す極上のサスペンス!
ゴーストライターになんてなるもんじゃないな。今回のように自伝の場合は、被伝者にすごく心酔しているとか、村上春樹の「1Q84」の天吾みたいにその作品にほれ込んでリライトするなら、まだ話はわかるけどね。名無しのゴーストライター扮するユアンの役は、政治に興味があるわけでもないし、元首相を尊敬しているわけでもない。途中でおいしいこともあったけど、最初からケチのつき通しじゃないか。なぜ、前任者は不審な死を遂げたのか、知りたい気持ちはわかるけど、真実に近づいちゃいけないこともあるんだよ。本だったら、ページをめくる手が止まらないような、次にどう展開するのか興味がわいて、一瞬たりとも目が離せないような映画だった。ミステリーの映画化だと、見え見えの伏線でばればれの作品か、強引な展開で結末を持ってくる作品も多い中、この作品は静かにけれども着実に真相に迫っていき、見応えがあった。終わり方もスマートで、さすがポランスキーと思わせた。
そうか、大河ドラマでも。。
鑑賞後に、このタイトルを、なるほどね~と納得した^^;
まぁなんとなく、想像がつく展開ではあるものの、
さすがはポランスキー、抜かりなく語り尽くしてくれる。
とにかく、政治サスペンス?スリラー?テイストの中に
ユーモアを織り交ぜた飽きさせない語り口、不甲斐ない
主人公(似合い過ぎユアン^^;)が、遂に真相に近づく辺り、
よーし、よーし!と期待を持たせてくれるのだが…。
自分の前任者であるゴーストライターが海で不審死、
後を継いだ自分も何かされるんじゃ!?と危機恐々の
ユアンがなぜかドツボに嵌っていくその様子…が面白い。
こういう巻き込まれ型サスペンス、本人がやる気を出して(爆)
調査追及、さらに真相にたどり着く頃には知りすぎていた…^^;
って、あ~なんかまるでヒチコックの世界が垣間見れるのだ。
まぁ誰が犯人で?なぜそういうことに?というのは、
ラストのおぉ!という暗号解読でバンザ~イ!を迎えるので、
そこまでは存分にスクリーンに観入ってもらうとして、
そもそもみんな怪しいもんだから^^;何なんだよ~なおかしさが
初めからつきまとう。とりあえず元首相の過去、謎の写真、
すぐ散歩に出かける妻、全てをおかしいぞ、なんかおかしいぞ、
というスタンスで、ジリジリ観ていくのが正しいのかも。
それにしても運の弱い主人公だが、そもそもゴーストライター
なんて職業を名乗っている自体、表舞台に踊り出られない身分。
でも考えれば、自分がゴーストとして描く自叙伝の本人について、
いちばん肝心なことまで知り得ちゃう立場な訳だから、幾らでも
探りようがあるわけで。。
ヤバい!と思ったらそこで退くか、更にのめり込むか…でしょう。
のめり込めばそれこそ危険が迫るのはお決まり~、とはいえ、
そのくだりが観たいんだもの観客は!突き進んで貰いませんと。
期待通りに推理と謎解きは進み、緊張感もピーク!に達した後の
あのラスト…。
だからこのタイトルなんでしょ?と素直に思えたのは私くらいか。
(怖いですねぇ…組織って。監督は入国審査が堂に入ってたな^^;)
観終わって分かる。英国と米国の俳優の配し方が絶妙
物語は、雨の夜、古くさい音楽をバックにフェリーの着岸で幕を開ける。 次々とクルマがフェリーをあとにするなか、持ち主を失ったクルマが1台取り残されていく。アクションがあるわけでも、死体が出てくるわけでもない。怒鳴り合いもなく、ただクルマが流れていくだけの導入部。だが、これだけで事件はすでに始まっており、ただならぬ事が起こる予感を漂わせるのだから巧い。 元英国首相アダム・ラングの自叙伝を執筆する仕事を引き受けただけのユアン・マクレガー演じるゴーストライターだったが、取材中にラングのスキャンダルが明るみに出る。国際問題にもなりかねない窮地に追い込まれたラングの過去に触れたばかりに、不可解な疑問が芋づる式に浮かび上がる。 好奇心旺盛なゴーストライターは、その疑問を捨てきれずに、答えを追い求めてしまうというのが本筋。主人公はほかの映画のように屈強な元海兵隊でもなんでもない。語る口調も物静かなブリティッシュ・イングリッシュだ。画像の色調も抑え込まれている。言ってみれば、何ひとつ派手なところがない。 大きなアクションもなく、登場人物の相関が明かされていくだけなのだが、ヘタなアクション映画など舌を巻くスリルとサスペンスで充満している。 登場人物は地味だが、誰ひとりとして無駄な人物がいない。 観終わって分かるのだが、英国と米国の俳優の配し方が絶妙。 けっきょく、最後までユアン・マクレガー演じる主人公だけは氏名が明かされない。“ゴースト”と呼ばれ続ける。まるで、初めから存在しなかったかのように・・・。 ラストの仕掛けもよく、謎が解ける爽快感と意外な結末に息を呑む。 久しぶりに心に残るラストシーンに本物の映画人ならではの職人技を見た。
独自の映像感覚と名優の競演が更に作品を盛り上げる見応え有る1本
「戦場のピアニスト」以来9年目の新作となる、ロマン・ポランスキー監督の『ゴーストライター』は、久しぶりに、‘映画を堪能できた!’と言う満足感と共に私に映画館を後にする感動をくれた。 推理小説の映画化作品及び、サスペンス映画など話しが進む過程で誰が真犯人なのかを推理しながら見る映画には、犯人推理の為の複線が多数本編全体に巧く散りばめられていて、映画は読書と違い、読み返してもう一度不明な点を確認する事を許さない。 つまり私の様に感の鈍い観客や、集中力が保てない疲れた後にはサスペンス映画を観るのは不向きである。しかしそんなサスペンスが得意で無い人にも飽きる事も無く、置いて行かれたと言う不満を抱かせる事ない。 しかも推理好きにも、そう単純に謎がばれてしまう様な安易な芝居も無い。綿密に練り込まれ、仕込まれた手作り感覚の風合いを残した本作は、監督自身様々なスキャンダラスな事件に巻き込まれて来た、彼ならではの実体験に基づいた、人の揺れる心と、物事の裏表の描写感覚の凄さが、そのまま作品の価値を大きく上げている気がしてならない。 『ローズマリーの赤ちゃん』を観た時のラストのショック、『チャイナタウン』のラストも決して忘れられない。この作品も同様だ。70代になった彼には老いと言うものが有るのだろうか?全く演出に衰えを微塵も感じさせるところが無い作品だった。 監督の魅力同様、主演のユアン・マクレガーの繊細な芝居も目を見張る。彼は、『トレインスポッティング』のブレイク以来『エマ』『ブラス』『ムーラン・ルージュ』『スターウォーズ』『天使と悪魔』『フィリップ』と出演作品それぞれ巧みに役どころを変幻させ、そしてウッディー・アレンの作品に迄出演している、何と言う芸達者な俳優だ! この映画一つ一つ気に入った処を書いて行きたいところだが、映画の性質上多くは書けないので、ここで終わりにするが、P・ブロスナン、キム・キャトラル、イーライ・ウォラック等々名優の競演もこの映画の楽しみを一層引き上げる。 3D全盛の今時の作品としては、派手な特撮と言う‘騙し絵’的な小細工無し、掛け値無しで、これこそ今時真っ当な娯楽映画と呼ぶに相応しい作品に出会えた事をとても嬉しく思う。
ゴースト・ライター
久方の上質なミステリー。こういう作品はストーリーに触れない方がよい。カメラ、音楽も良く、巧みな監督の話術で、前半ちょっとだれるが中盤から緊迫度が増し最後まで飽かせない。ラスト・シーンが印象的。
ラストシーンに胸が潰れる思い
2003年 米軍と英国軍がイラクを侵攻して、戦争を仕掛けた時 ジョージWブッシュ大統領は サダム フセインが政権独裁をしているイラクには大量生物化学兵器があり、自由世界が危機下にあると断言した。続くトニー ブレア英国首相も イラクの大量破壊兵器を潰すことなしに平和はない、として足並みを揃えた。
ジョージWブッシュと トニー ブレアの開戦と同時に オーストラリアのジョンハワード首相も開戦に同意して特殊部隊を投入、小泉純一郎首相は 開戦を支持する声明を出した。
国連の決議なしに フランス、ドイツ、ロシア、中国の強硬な反対を押し切っての決断だった。国が戦争を始めるという大事な決断を米国ブッシュが言い出すやいなや 英国もオーストラリアも日本もすぐ同時に、賛成したのは 何故か。
ソースが同じだったからだ。
情報の「もと」が たったひとつ。その「もと」とは 何だったのか。
CIAだ。CIAの作った軍事情報をもとに 各国は兵を送り、イラクに戦争を仕掛けた。そして、それはいまも続いている。
1991年湾岸戦争のとき、停戦決議で イラクの大量破壊兵器の保持が禁止された。しかし兵器はある、として2001年ブッシュが大統領就任するとすぐに 米軍がイラクへの空爆を開始し、2003年、全面的開戦となった。投入された米軍26万3千人、英軍4万5千人、オーストラリア2千人。
サダム フセイン大統領が倒れ、2006年に処刑された後も 米国を中心とする連合軍によるイラク占領政策は続き、戦闘終結宣言以降に、大量の死者が出ている。米軍が36万6千人の兵力で イラクのマリキ政権を擁護しても、治安の悪化とシーア派、スンニ派との対立を抑えきれない。マリキ政権が 米英軍占領軍の繰り人形にすぎないことがわかっているからだ。
第1次湾岸戦争のときブッシュの国防長官だったデイック チェイニーは 第2次湾岸戦争のジョージWブッシュのときには 副大統領を勤めた。彼はハリバートン社の経営者で所有者でもあり、この世界最大の石油掘削機会社をして、イラクの復興事業や軍事関連サービスを提供して 二つの戦争で巨額の利益を得ている。イラクに眠る 油田の権益のためにも米国は何が何でもイラクを占領しなければならなかった。
戦争ほど儲かる商売はないからだ。
米軍兵4000人余り、民間傭兵1000人以上の死者を出してやっと、ブッシュは 選挙で負け去った。2009年1月オバマ大統領は 就任後イラク駐留米軍を5万人に削減、2011年には全面撤退を約束した。
今年に入って、英国議会では イラク参戦に関する独立調査委員会の公聴会で、トニー ブレアを証人喚問した。ブッシュのペット プードル犬と呼ばれた男だ。彼は大量兵器がない とわかって何故 戦争を続けたのか と厳しく追及されている。
CIAの情報をもとに イラクで亡くなったイラク市民15万人、アメリカ人5千人余り、英国人179人、この戦争のために起こったニューヨーク貿易センタービル倒壊で亡くなった2千人余り、州兵がイラクに行ったため救援できずハリケーンカトリーナで亡くなった2000人、ロンドン爆発事件で亡くなった56人、スペイン列車爆発事件で亡くなった191人の人々、、、おびただしい死者の列、、、。
映画「ゴーストライター」を観た。ロマン ポランスキー監督の新作。ロマン ポランスキーは 去年2009年9月に チューリッヒ映画祭に参加した際 スイス当局に逮捕された。30年近く前に彼が起こした13歳のモデルの子への淫行容疑のため ずっとアメリカから逮捕状がでていて、身柄引き渡しを要求されていた。昔のことで 当時のモデルは訴訟を取り下げている。何故、今になってパリに住むポランスキーが突如、スイスで拘束されたのかわからないが、ともかくもスイスは米国への身柄引き渡しは拒否、2010年7月になってやっと、ポランスキーを釈放した。これは 遅れをとりもどすようにして、彼が力を注いで発表した作品だ。
ポランスキーが拘束されたときスイス映画祭に来ていた 映画関係者たちが 口々に「彼は生涯のファイターなのに、、、。」と言っていた言葉が印象的だ。
ユダヤ教徒のポーランド人。母はアウシュビッツで殺され 本人は収容所から逃亡、ドイツ領となったフランスで ユダヤ狩りから隠れ 転々と逃げながら成長した。
1969年には 自分の子供を妊娠中の妻、シャロン テートが惨殺され、その現場の惨状の第一発見者だった。
2002年「戦場のピアニスト」でアカデミー監督賞を受賞。今年、釈放されてやっとこの映画「ゴーストライター」を発表することができた。彼の一生を見ると、文字通りの生涯のファイターなのだ。
ストーリーは
湾岸戦争に兵力を投入した前英国首相アダム ラングは責任を問われて退陣、今は追及を逃れてアメリカ東海岸の孤島で引退している。伝記を出版する予定でそのための ゴーストライターを探している。ラングのために、600枚あまりの伝記を書き下ろした前任者が この島と本島を結ぶフェリーから 酔って転落して 死亡してしまったので その後を継いで 伝記を仕上げて欲しい。一か月で仕上げてくれたら25万ドル報酬を出すという。願ってもない仕事に ゴースト(彼の本当の名前は映画の中で終始出てこない)は喜んで フェリーに乗って孤島に向かう。
しかし着いて すぐラング前首相が、戦争犯罪人としてハーグ国際戦争裁判所で裁かれるかもしれない というニュースが飛び込む。テロリストを違法な方法で拷問した という件が問題になっていた。押しかけてくるマスコミ勢に追求から逃れる為の声明作りまで ゴーストが引き受けることになってしまった。
夫婦仲の良くないラング前首相、事務的で高飛車な秘書、愉快でないラングの家で ラングへのインタビューと執筆が始まる。亡くなった前任者の部屋を片付けていて、ゴーストは引き出しの裏に、テープではりつけてある秘密の封筒を見つける。そこにはラングの大学時代の仲間の写真があり、それらを渡すべき人の電話番号が 走り書きされていた。
ゴーストは 前任者が 酔ってフェリーから転落死したのではないのではないか、と疑い始める。自転車でラング邸から出て、岬に行ってみる。そこでゴーストは人の良い年寄りに出会う。老人は フェリーから転落した死体は 波の関係でこの島に打ち上げられるはずはない、と言う。でも死体を発見した夫人は その後 階段から落ちて昏睡状態に陥ったので、死体がどんな状態だったのか、事実はわからずじまいだ、と言う。
ゴーストは 本島に渡り、写真をもとに調べ始め、写真に写っている男がラングが首相だったときの閣僚の一人で 兵器会社の持ち主であり、CIAに通じる男であることを突き止める。この男は ゴーストに刺客を差し向けてくる。手に汗を握る逃亡、、、。
ゴーストは 前任者が残していった電話番号を回す。現れた男に従って最終的に出会えたのは、現在の英国政府 外務大臣その人だった。判明した段階の事実だけを報告して、ゴーストは島に帰る。
そこで彼を待っていたのは、、、。
スリラーなので この先はいえない。
ラング前首相とは トニー ブレアのことだ。この映画では 伝記を書き残した前任者と、ラングの残した言葉がキーになる。ヒッチコックの映画のように、よくできた映画だ。そして、ヒッチコックの映画のように 素晴らしいラストシーン、、、。 興奮した。
胸が潰れるような 悲愴な思いに陥るラストシーンが忘れられない。
生涯のファイター ポランスキーの描いた湾岸戦争が、そこにある。
キャスト
前首相:ピアース ブロンストン
妻 :オリビア ウィリアムズ
秘書 :キム カトレル
ゴーストライター:エバン マクグレゴール
これぞサスペンス!
一足お先に鑑賞して、すごく良かったという印象でした。 すぐに感想を書くべきでしたが、(ポランスキー)監督の拘束(逮捕?)騒動などで 作品情報が載っておらず、“いわゆる お蔵入りなのか…”と思っていました。 でもこんなにドキドキするサスペンスを 見逃す手はありません! ゴーストライターとして成功をおさめている イギリス人作家・The Ghost(ザ・ゴースト)。 イギリスの元首相アダム・ラングの回顧録の執筆を引き受けたが、もともとこの回顧録の執筆を引き受けていた ラングの補佐官が不幸にも事故死したことに始まり、ザ・ゴーズト自身の周囲でも おかしなことが起こり始め・・・(ネット情報より抜粋)。 主人公のザ・ゴーストを演じた ユアン・マクレガー。 覗いちゃいけないけど、そーっと覗きます。。恐いんだけど、でも勇気を出して行っちゃいますというキャラクターを ばっちり演じてました。 そこには 作家としての意地も見え隠れするし、何より“大変なことに巻き込まれちまった…”という恐怖が 中盤から後半にかけてどんどん襲ってきて、手に汗握ります。 それはユアンの演技(表情)の素晴らしさから きていると思います。 元首相の秘書・アメリアを演じた キム・キャトラル。 『SATC/セックス・アンド・ザ・シティ』のイメージがつよい彼女ですが、今回は 生真面目な秘書。「へぇ~、イギリス英語も できるんだぁ」と感心していたら、なんと彼女!イギリス出身だったんですね。。 無知でした。。 ラング元首相を演じた ピアース・ブロスナン。 いつも存在感なくはないけれど、どことなく 弱いキャラのピアースさん。 今回も ユアンが主演ということで、サブに徹していて(弱いけど)よかったと思います。 元首相の妻・ルースを演じた オリビア・ウィリアムズ。 『シックス・センス』でブルース・ウィリスの妻を演じた 女優さんです。 “ちょっと影がある女性”を演じるのが お得意のようです。 背景(ロケーション)や、劇中の空気も どんよりしていて 「暗い映画だわ。。」と 最初は戸惑いますが、後半にかけて「これぞ サスペンス!」という見所がありますので 一見の価値ありです。
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